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「真壁さん、聞いてくださいよ! またサークルの奴ら、あたしと真壁さんの仲をからかってきたんすよ! あたし、そういうの本当に嫌なのに!」
お昼時の中華屋に、南砂羽の怒声が響き渡る。彼女の連れでありサークルの先輩でもある真壁俊明は、止まない喧噪に安堵しながらも、周囲の目が気になって仕方なかった。
「うん、分かる。分かるから声のボリュームは落としてくれ」
南は真壁の制止を受けて、顔を顰めながらも一旦は口を閉ざした。
南をからかったのは、南と同学年の二宮明理と斉木竜也だろう。少しでも雰囲気の良い男女を見つけると、あの二人はすぐからかいに走る。
他のサークルメンバーは、南がその手の話題を嫌っていることを理解している。最近は、真壁と南が一緒に居るところを目撃しても、からかわずに接してくれることが多くなった。
「アイツら、あたし達が恋人じゃないってことを理解できないみたいなんです。『どうせ時間の問題でしょ?』ってからかわれるのもいい加減ウンザリしてきました。いつ諦めてくれるのかなあ」
「そりゃ、南か俺に恋人ができるまでだろ」
「そんな動機で彼氏作りたくない……」
南は天津飯を前に、長い溜息を吐く。真壁がチャーハンを口に運びながら数えたところ、彼女が息を吐き終わるまで一分かかった。流石はアカペラサークルのメンバー、凄まじい肺活量だ。
南は手を合わせて天津飯を食べ始めた。
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