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「真壁さんみたいに真っ直ぐで透明感のある歌声の人、なかなかいないですよ。主役を張れるほど芯があるのに、ハーモニーを乱すこともない。真壁さんの努力の賜物ですね」
「……あんまり褒めても何も出ないよ」
「え?! 違いますよ、真壁さん。あたし、本当に真壁さんのことを尊敬してるんです!」
自分を慕う後輩の発言を受け止めていくうちに、真壁は彼女が恐ろしくなっていった。南が自分に懐き、尊敬の気持ちを向けてくる理由が分からなかったのだ。褒めた見返りを求められているのではないかと悩んだこともあるし、彼女が自分に恋愛感情を抱いているのではないかと疑ったこともある。
二人の間に信頼関係が築けていれば、あるいは真壁に人並みの自信があれば、彼は南の言葉を素直に受け止められていたのかもしれない。しかし、知り合ってから数ヶ月の間は、彼女が純粋に自分を褒めているということが、真壁には信じられなかった。
自分の賛辞が敬愛する先輩から良く思われていないことに、南も気付いているようだった。
彼女はその理由を誤解していた。自分の熱意と語彙力が足りないが故に、褒め言葉が心に届かなかったと解釈してしまったのだ。
その結果、彼女の賞賛がヒートアップしたことは言うまでもない。
目から尊敬ビームをキラキラ放ちながら異性の先輩を全肯定する南の姿は、真壁だけでなく他のサークルメンバーにも異様に見えたらしい。
南、真壁のこと好きなんでしょ? さっさと告白しちゃいなよ。そんな言葉がサークル活動中に聞こえてきたことがある。
真壁は声のする方に目を遣った。自分を激賞する南の真意が知りたかったからだ。
輪の中にいる南の表情が見えたとき、真壁は心臓に杭を打ち込まれたような気分になった。
彼女は、普段真壁に見せるような明るく輝いた笑顔でもなければ、頬を赤く染めた照れ顔でもなかった。
眉間に皺を寄せ、への字に曲げられた口の端には怒りが滲んでいる。軽蔑の色を湛えた瞳が、ちらりと真壁に向けられた。
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