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空の食器を前に、真壁より数分遅れて、南が手を合わせる。
「真壁さん、ご存じですか? 前にネットの記事で見たんですけど。男女の友情って、どっちか片方が馬鹿だと成り立たないそうです」
「……その馬鹿ってのは、どういう馬鹿のことなんだ?」
「ごめんなさい、説明が足りませんでしたね。人が異性に向ける感情を全部恋愛感情だと誤認する馬鹿のことです。二宮や斉木みたいな奴らのことですね」
「ふーん。異性に、ね」
真壁は南の話を聞きながら、彼女の性格を頭に思い浮かべていた。
南は潔癖で頑固なところがある。特に、自分の感情を他者に決めつけられることを酷く嫌っている。
「例えば、尊敬とか信頼って、友人にも抱くことがある感情じゃないですか。ご存じのように、あたしも真壁さんの事を尊敬してますし、信頼してます。……あ、友人ってのは言葉の綾ですよ! 恐れ多かったですかね?」
「いや? 俺も南のことは、後輩ってよりも友達だと思ってるな」
話の腰を折りそうだったので流したのだが、はっきりと「尊敬してます」「信頼してます」と言われるのは相当気恥ずかしかった。南と出会って一年経つが、真正面から向けられる正直な友愛の言葉には未だに慣れない。
「わーお、嬉しいお言葉。で、それを二宮達に伝えたら、「それって真壁さんのことが好きって事だよね、今からでも遅くないから告白しなよ」って言われたんですよ。おかしいですよね?! ただの尊敬の気持ちが、異性に向けた途端に恋愛感情の仲間入りをするなんて信じられない」
「……俺もそう思ってたときがあるから、二宮達のことは悪く言えないな」
真壁も、南と知り合って間もない頃、彼女の尊敬の気持ちを恋愛感情だと疑ってしまったことがある。
今にして思えば、彼女に対する最大の侮辱だった。
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