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「そう言えばそうでしたね。でも真壁さん、正直に答えてほしいんですけど……あたしに恋愛感情を抱いたこと、あります? 気を遣ったりしなくて結構ですので正直に答えて下さい」
南は戯けながらも、その答えを分かっているはずだった。だからこそ敢えて問うている。
真壁が南に対して少しでも色目を使おうものなら、この聡い後輩は必ず気付いたはずだ。
真壁は返答に気を遣わなかった代わりにフォローを入れることにした。南はそんなことで傷つく奴ではないが、念のためだ。
「分かってるだろうけど、ないよ。念のため言っとくと、南に女としての魅力がないって言いたいわけではないからな」
「そう! あたしもそうなんです!」
南は今にも立ち上がらん勢いで肯定の意を露わにした。真壁には何が南の琴線に触れたか分からなかったが、彼女は息を整えたあと、心から満たされた笑顔で話を続ける。
「あたしが真壁さんと友達のままでいるのは、真壁さんに魅力がないからじゃない。あたし、あなたと友達でいることを選んだんです。選ぶことができたんですよ。真壁さんのおかげです」
傍からだとお互いが気を遣い合っているようにしか聞こえないことに真壁は苦笑したが、南のフォローの仕方は切り口が違う。恋人よりも友人の方が尊いものであるかのような言い回しだ。
距離の近い男女の仲が発展しない理由なんて、大概が悪い内容だ。相手が不細工で魅力がなかったとか、生理的に無理だったとか、話し方がムカついたとか、性格が悪かったとか。ともかく、男女が『友達のままでいる』という言い回しには、停滞や未発展などの、否定的な意味が含まれている。
けれど、南も真壁も、相手に落ち度があったから友人のままでいるのではない。
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