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「というわけで、異世界転生ですの」
“キキタタ”を自称する、その3等身の少女が言った。
実際には、「というわけで」の言葉の前に、それほど説明があったわけでもない。
いま場所は、空白。
ひたすらに空白。まったくのブランクのみで成立している空間だ。
わたしの正面にはそのキキタタ、そして右側には――
なにか、キツネっぽい動物耳を頭につけた、わたしと同じくらいの年ごろの少女が立っている。わたしと同じ、とは、つまり15-6才ぐらいに見える、ということだ。
なぜ動物耳を頭につけた少女がそこにいるのか、という疑問は少しあった。
まあしかし、それを言うとなぜこんなブランクな空間に自分はいるのか、という素朴な疑問。また、なぜそのキキタタを名のる少女は不自然なくらい3等身で髪が綿のように白く眼の下から頬にかけて縦の赤いラインが引かれていて、しかも空白の中を浮遊するように少し高い位置にいるのか、さらに言うと彼女が着ているその房飾りがやたら多い民族衣装的な白っぽい服は、いったいどこの国籍のものなのか、などなど。言い出すと疑問は尽きない。
「これから二人には、『ネメ』という娘をヘルプしてもらいますわ」
キキタタがシンプルに言って、ふゆふゆふゆ、と白い空間の中を上下した。
「はい、質問」わたしは手を上げる。「ネメって誰ですか?」
「それはこのあとわかることですの」
「はいはい! 質問にゃのだ」キツネ耳の少女が手をあげる。「あたしはたしかさっき死んだのじゃないかと思うのにゃが、なぜまたここで生きているのかにゃ?」
「ですから異世界転生ですの」
キキタタがシンプルに答えた。
「はい、質問」わたしはまた手を上げる。「もし転生したくないって言ったら、しなくてもいいんですか?」
「それは、可能ですわ。」キキタタがシンプルに答えた。「ただしその場合、即座に無になって意識も何もかも、存在そのものの記録が宇宙から抹消されますの。それを希望する場合は今すぐ言ってほしいですの。その処理をして、また別の人材をよそからリクルートしますの」
「あ、はい。なんかよくわかりました。事実上、選択の余地はないってことですね…?」
「選択はできますわ。無になるか、転生するか。今、自由に決めてくれたらいいですの」
「あ、えっと。じゃ、転生のほうで」
「あたしも転生する方にゃ」
「はい。じゃ、きまりですわね。ではさっそく、ネメを紹介しますわ。移動ですわ」
キキタタがドライに言って、それから、右手に持った銀色に光る細い杖のようなものを大きく振るった。
その瞬間、わたしたちは移動した。
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