わたしとワフーとネメのこと。~恋するシャーラの物語~

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 わたしが次に移動した先は、さきほどとうってかわって、とても深い暗闇だった。  今そこに、スポットライト的に光が中央に降っており、  その丸い光のたまりの底に、ひとつの椅子があった。  その椅子に、いま、ひとりの少女が座っている。  わりと短めの黒髪、褐色の肌、端正な顔立ちに、ちょっぴり厚めの唇、とても痩せて線が細く、年齢は見た感じ、12-14くらいに見える。なにかベージュ系のエスニックな民族衣装を着て、とても無表情にそこに座り、ななめ前の下の方に視線を固定している。 「これがネメですわ」  キキタタが、暗い空間を左右に浮遊しながら言った。 「本来的には、彼女がメインの転生者ですの」事務的な口調でキキタタが言った。「前世でネメは、とある砂漠の国で生まれ、生まれながらの奴隷として、暗殺者養成所で幼少期を送り、人を殺すこと以外には何も教わらずに育ちましたの。14のときに仕事でヘマをして、殺そうとした相手から逆に殺されてしまったのですわ。その娘の人生が、あまりにも幸福からかけ離れたみじめなものだったために、宇宙をすべる宇宙神が不憫に思われて、特例的に転生の機会を与えてやったわけですの。そして今度の転生先では、幸せなことしか起こらない、楽に暮らせるお得な人生をと。そのような意図だったのですけれど。なにぶんネメの、社会性がきわめて低すぎて――」  キキタタがちらりと視線をネメに送ったが――  椅子にかけたその少女は、無表情のままで、視線の位置を変えない。 「それほど極端なまでの難易度の低い、幸せライフのみが約束されたこの新世界においても、どうやらこの娘は幸せな人生をつかめそうにないと。そのようなムズカシイ状況に陥りましたもので。ここはひとつ、新たにヘルプを投入と。ま、そのようなわけで、いま、あなたがた二人が選ばれましたの」 「はい、質問」わたしは手を挙げた。「えっと。転生先と言っても、ここって、何もないですね? この子と椅子と、わたしたち以外。あとは黒しか見えないんですけど?」 「ここはあくまで、娘の内部なのですわ」 「内部?」 「そうですわ。新しい人生においては、ネメは、『シャーラ』という娘として転生していますの。ですからここは、シャーラの中と。そう言った方が正確ですわね」 「えっと。よくわからないです」 「すぐにわかることですわ。他になにか質問は?」 「はいはい、質問にゃのだ!」 キツネ耳の娘が手をあげた。 「いまさっきヘルプと言われたにょだが、ヘルプって、何をすればいいにょだ?」 「いまここにいるネメが、いえ―― シャーラが、ですわね。新たな世界で、幸せをつかめるように。二人には最長で二年間、ここでこの子のそばについてサポートをして頂きますの。で、もしもうまくサポートができたのなら。その時点で、新たに二人にも、また別の、より良い転生のチャンスが与えられますわ」 「えーっと。ごめんなさい。たぶんわたし、あたま、あまり良くないから。いまいちまだ、説明、よくわからないです」 「あたしもぜんぜん、わからにゃいにょだ」動物耳少女が、てへっ、と可愛く舌を出してぽんぽんと右手で自分の頭を叩いた。 「では、あれですわね。習うより、慣れろと。各地でむかしから言いますわ。ネメ、」  キキタタが、そこで初めて椅子に座った少女の名前を呼んだ。  ネメと呼ばれた少女が、少し眠そうなとろんとした視線を、わずかに上げてキキタタの方にむけた。 「紹介しますわ。あなたのサポート役をつとめることになる、こちら、右側に立ってるのが『あかり』。そしてそちら、大きな耳のある方が『ワフー』ですわ。これからこの2人と、ここでうまくやっていただきますの」  ネメと呼ばれた少女は、あまり興味なさそうに、ぽりぽりと、左の手で自分の頭の横を掻いた。基本、感情の起伏が感じられない。表情がまったく変わらない。 「では。さっそく『あかり』に、かわってもらいますわ。ネメ、場所を譲るのですわ。しばらくは『あかり』が、前に出てくれますの」 「前に出る?」  言葉の意味があまりわからなかった、けど。  なにか、ネメが、とてもだるそうに椅子から立ち上がり、むこうの奥の闇の領域にうずくまって座った。 「さ、『あかり』。ここに座るのですわ」  キキタタが杖で、その椅子を示した。装飾の乏しい、つるりと擦り切れた、おそらく古い木製の椅子のように見えるのだけど。 「えっと。座ればいいんですか?」  わたしは―― その、闇の天井から降ってくるスポットライトの中央、  その、そこにある唯一の椅子に――  なんだかよくわからないまま、「よいしょ」と、座った――      
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