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「で、あるので。吟遊詩人スフィハディーンは、好んでこのタイプの韻を用いると。では、誰か、さっそく読んでみてくれるかな?」
「はい。」
「では、ワックスーヤさん」
「はい。『ああ、やわき肌の乙女よ、黒檀の瞳をもつ少女、この浮世の理をこえて、いつかわれらは二人、永遠の光の中でかたく結ばれん―― スレイマーンの神々も、エトナール山に吹く山風も、ふたりの絆をわかつことはあたわずに――』」
突然わたしは、今そこにいた。
明るい昼の光が、燦々と天井から降っている。
温室のような、南国の植物を集めたガラス張りのドームの中――
中央には涼しげに水をたたえるアンティークな大きな水盤があり――
そこを何重にも囲むようにして、いま、三十人ばかりの少女たちが座っている。
どの子も肌は艶やかで―― 髪は黒く――
歳はだいたい、14-16といった感じか。
服はほぼ白地をベースに―― そこにカラフルな刺繍模様。
服の生地は、薄くて上質なレース生地、みなさんふわりとそれを体に巻き付けて――
そのうち何人かは、頭にも、ほぼ同じ生地の薄いショールのようなものをかぶっている。
「『ああ、わが永遠の乙女よ、ただひたすらに、そこで僕を待て、僕はやがて金の翼を駆り、その光降る地へと舞い降りぬ、ああ、ただひたすらに――』」
「ありがとう、ワックスーヤさん。もう座ってもいいです」
「はい」
ひとりの少女が、その何かの文章を読み終えて――
ふわりと向こうの椅子に座った。
むこうにひとり、白い優雅なエスニックなドレスを着た大人の女性が立っているのは―― 立場的に何か、たぶん、先生か何かだろうと思う。
『コショメティート女学院ですわ』 頭の中で、キキタタの声がした。
『大エルシア帝国の首都、エルセポリス市の北部市街にありますの』
「えっと、エルシア帝国?」
わたしは声に出した。まわりを囲む何人かの少女たちが、不審そうにこちらを見た。
『声に出すと狂人と思われますわ。心の中で思うだけで会話は成立しますの』
『ああ、なるほど』
『帝国の支配者階級のエリート子女ばかりを集めた少数精鋭の学院ですわ。将来この娘たちは、全員が、帝国の支配者階級、スルマーンと呼ばれる王侯の子弟に嫁ぎますの。ま、わかりやすく言えば王子ですわね』
『王子。』
『ええ。ですからここは、花嫁学校。ここで2年学んで、その後、しかるべき王子にみそめられて、めでたく婚約・結婚と。ま、そのような流れですわ』
『えっと。じゃ、わたしはここで、何をすればいいんですか?』
『ただ、生活していれば良いですわ。適当に授業などを受けて。もとよりあなた―― シャーラは、ここでは衣食住には困らない立場にありますの。ですからそこで、ただ、存在していればよいと。とても簡単なことですわ』
『えっと。でも、その、簡単なことが―― あの、ネメって子には、できなかったわけ、でしょう?』
『それはネメが、特別に鈍くさかっただけですわ。さ、説明はここまで。あとは自力で何とかがんばってくださいですの。』
『えええ? もう説明おわり??』
『わたくしも暇ではありませんの。別の仕事を三つも四つも持っておりますのよ。あなた方だけにかまっているわけにはいかないですわ。ああ、そうそう。もし疲れたら、適当にタイミングをみて、ネメか、あるいはワフーにバトンタッチしたらいいですわ。』
『バトンタッチ?』
『まあでも、可能な限りネメに、ここでの生活を経験させてやって欲しいですわ。それもペルプの役目ですのよ。では、わたくしはもう行きますわ』
『あ、えっと、ちょっと、待って――』
そのあとどれだけ心の中で呼んでも―― もうキキタタからの変事は返ってこなかった。
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