わたしとワフーとネメのこと。~恋するシャーラの物語~

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「では次に、誰か、その次の詩を読んでくれるかな?」 「先生、」 「なにかな?」 「シャーラが、読みたいと言っています」  いきなりそんなことを、言う娘があらわれた。  まわりでクスクスと、良くない感じの笑い声があがる。  あ、なんかこれ、よくあるいじめっぽい流れだな。やな感じ。。 「ほう? シャーラさんが?」  その、先生がこっちを興味深そうに見ている。  えっとえっとえっと。 「ねえ、これってどの部分を読めばいいわけ…?」  わたしはひそひそと、隣にいた女の子にきいた。  その娘はギョッとした顔をして、おずおずと、そこの、  教科書っぽい、ぶあつい紙の束を指さした。    まあでも、いきなりそんなの読めるわけ――    ん? けど、なぜだろう。  ぜんぜん知らない文字っぽいのに、意味が――  意味と発音が、頭の中に自然に流れ込んでくる―― 「『しからば問おう、異国の乙女よ、この僕をあえて君は選ぶというのか、』」  わたしは立ち上がって、読んでみた。  うん。いける。原理はわからないけど。  なんかわたし、ここではこういうの、得意な設定っぽい。  もともと朗読とかは、わりと得意な方だった。  言葉の意味と発音さえはっきりわかれば。そんなにこれは、難しくもない―― 「『僕は無謀な挑戦者、まだ見ぬ峰を探し求める探究者、この僕を選ぶということは、すなわち君の人生は、あらゆる困難と挑戦に彩られ――』」  ああ、読める読める読める。いいなこれ、ここの国の言葉。響きがきれい。なんか読んでて、気持ち良い。  わたしはすらすらっとその長い詩を読み終えて、ちょっぴり「ドヤ顔」で、まわりの女の子らを見回した。今そこの温室の中が、いま急に、しんと、すべてをミュートにしたみたいに静まり返った。おそらくわたしをいじめる目的でわざわざわたしを指名した、その、ちょっぴりキツい顔した美人の女の子が、ぽかんと大きく口をあけ――   「んん、素晴らしい朗読でした。発音も完璧だ。」その女の先生が、最初に自分を取り戻して言った。「とてもきれいな詠唱。いや、ふだん無口なシャーラさんが、まさかそういう、いい声をしていたとは。わたしもうっかり、知らなかったな。みな、拍手を」  ぱちぱちぱち。  そこの温室の中に、とまどった拍手がぱらぱらと起こった。
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