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1 Keigo.side
三年前の、十二月二十四日。
街が幸せな空気で溢れていたあの日、恋人の矢崎真は死んだ。
人通りのない道路で、クリスマスプレゼントを持って俺に会いに来ようとしていた真さんを、飲酒運転の車が轢き殺した。
あの細い体を、何メートルも引き摺って、そのままその車は逃げた。
まるでオモチャのように滅茶苦茶にされた真さんは、その後、何分も、何十分も、誰にも見つけてもらえないまま放置されて、漸く救急車が呼ばれた時にはもう、手遅れだった。
事故の後、俺のもとに帰ってきてくれたのは、凄まじい痛みと苦しみの中、真さんが最後まで離さなかった、不格好なマフラーと、『メリークリスマス』と書かれたメッセージカード。
ただそれだけだった。
事件が大きくテレビで報じられたことで怖くなったのか、逃げていた犯人は、そのまま自殺してしまった。
俺が殺してやるはずだったのに、自分で勝手に死んでしまった。
怒りのやり場が、なくなってしまったのだ。
「圭吾くん、随分窶れたわね」
「…お義母さんも、同じじゃないですか」
月に一度、こうして、真さんの実家に来て、真さんの遺影の前で手を合わせる。
この時間は、俺にとって耐え難い苦痛だ。
真さんがもうこの世にいないのだということを、改めて強く認識させられる。
手を合わせて、目を閉じて、俺は天国とやらにいる真さんに何を願えばいいのだろう?
幸せでいてほしい。
笑顔でいてほしい。
そんなこと、欠片ほども思ったことはない。
ただ、俺のもとに帰ってきてほしい。
ただ…もう一度、あの笑顔に会いたい。
「そのマフラー…よく覚えてるわ。あの子何度も聞いてきたのよ。ここはどうしたらいいの、どうしたら上手く出来るのって、しつこいくらい」
「…真さん、不器用だったから」
不器用な真さんが、俺のために必死になって編んでくれたマフラー。
警察の人に聞けば、地面には、地を這ったような血の跡が残っていたらしい。
恐らく、このマフラーを取りに行ったんだろう。
ねぇ、痛かったでしょ?
苦しかったでしょ?
マフラー、ありがとう。
凄く嬉しかった。
でも………でもね、真さん。
俺は、マフラーより、あなたに帰ってきてほしかったよ。
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