ノック、ノック

トントン
入ってます。

トントン
どなたですか？

みなさんご存知のドアノック。
ノックなしで突然入ってきたらびっくりしますからね。

入る前の予備動作・確認動作として、よく使われると思います。

その行為ですが、ノック自体も唐突なので、結局びっくり加減は変わらないんですよね。

じゃあ事前に「ノックしますよ」って言えばいいんですかね？

いや急にノックしますよって言われたら、それもそれでびっくりする訳で。

そんなノックのお話。

私は会社勤めなのですが、「その現象」はオフィスの帰り際におきました。
エレベーターで一階に降り、オフィスエントランスを通って出入り口の自動ドアに向かいます。
もう遅い時間だったので人気はありませんでした。

私が出口に向かった時でした。
「待って！」と女性に声をかけられたのです。
声をかけてきたのはエントランスの受付嬢。私よりも若い新人さんです。
毎日顔を合わせはしますが、会話を交わしたことはなかったので私は不思議に思いました。

まあ、そういう表情が出ていたんでしょうね。

受付嬢は私の顔を見て、気まずそうにしながら
「急にすみません。ちょっと今、出て欲しくなくて」と言いました。

「出て欲しくないって、外に？」
私が聞くと、彼女は小さく頷きます。

エントランスには、私と彼女以外に誰もいませんでした。

場に妙な空気が流れます。

そのときでした。

トントン
とノックの音がエントランスに響いたのです。

私は驚きました。
ノックされているのは出入り口の自動ドアだったからです。
ただの扉なら別に気にするようなことではないですが、今回は別です。
もちろん、自動ドアの外に人はいません。

当たり前です。
人がいるならば、扉は自動的に開きますから。