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「お母さん、今日はお昼から出かけてくるよ。大学の友達と勉強するんだ。」
「あら、そうなの。頑張ってね。」
「うん。」
「ガクがお医者さんになるのが楽しみだわ。」
そう言うとお母さんは部屋の壁に飾られてある写真を一枚一枚眺めた。
僕とお母さん2人の写真だ。
僕とリキの顔はそっくりなのだけど、リキの写真は1枚もない。
自室に戻った僕はベッドに寝転んで1ヶ月を目前に別れることになった彼女のことを思った。
彼女を傷つけてしまった。
本当のことを言って彼女に謝りたい。
けど、本当のことを言っても彼女は信じてくれるのだろうか。
大学でできた友達も、リキにことごとく縁を切られてしまった。
ゼミに入っても、サークルに入ってもいつもリキが邪魔をする。
家ではお母さんの理想の息子を演じて、外でやることは全てリキに壊される。
僕の人生って一体なんなのだろうか。
お母さんの望み通りに医者になんてなれるわけがないっていうのに。
部屋を見渡すと、そこには僕が選んだものは一つもなかった。
お母さんの選んだベッドと机、本棚にはお母さんが買ってきた本が並ぶ。
ほとんどが医学の本だ。
大学に入ると少しは自由になれると思っていたのに。
でもしょうがない。
僕は愛されているんだから。
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