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「お母さん、行ってきます。」
「あ、ガク。はい、お小遣い。」
お母さんは僕に1万円を握らせた。
「いいの?ありがとう。」
僕は満面の笑みを作ってお母さんに抱きついた。
「行ってらっしゃい、ガク。」
家を出た僕は帰りにお母さんの好きな焼き菓子を買わないと、と瞬時に考える。
これが愛なのか優しさなのか、任務なのか防御なのか、もう僕にはわからない。
二駅先で降りて商店街を抜けて、小さなアパートの一室の前に立つ。
呼び鈴を押し込む。
ピン、ポン。
ガチャ、と扉を開いて僕とそっくりな男が顔を出す。
「なんだ、ガクか。」
そう言ってリキは中に入り、僕もそれに続く。
「ガク、昼飯食ったか?」
「ううん。」
「ちょうど良かった。昨日作りすぎたんだよ。」
リキは踵を返すと部屋と玄関の間の廊下にくっついたキッチンに向かった。
僕はソファに腰をかけてゆっくりと背中を倒した。
部屋の中を見渡して自分の部屋との違いに辟易する。
この部屋にはリキが選んだものしかない。
漫画や小説、ゲームだってある。
羨ましい、ここに来ると心の底からそう思う。
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