1人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「旨い。」
僕は素直に感想を言う。
リキは黙って食べている。
この料理だって、リキが自分で作ったんだと思うと羨ましいし、悔しくなる。
僕は包丁を握ったことさえない。
彼女のことは僕からもリキからも何も言わない。
リキが僕から何を奪っても、僕は何も言えない。
リキが欲しいものを僕はずっと与えられていたんだから。
「リキ、今度の試験なんだけど。」
「いいよ、出てやるよ。」
「…ありがとう。」
僕が医学部に入れたのも、留年せずにいられるのもリキのおかげだ。
僕は勉強ができない。
勉強だけじゃない。
僕は何一つ自分でできやしない。
「この際授業もゼミも全部俺が出てやろうか。」
独り言のようにリキが言う。
僕は黙ってご飯を食べる。
リキのように生活できたらどんなに良いだろうか。
僕たちが入れ替わっても気付く人なんていない。
…お母さんを除いては。
最初のコメントを投稿しよう!