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「今どこ!?」
『もしもし』すら言わず、彼女本人かも確認せず責めるように聞いていた。
「し、商店街のお花屋さんに・・・。」
面食らったように返ってきた声を俺の耳は貪欲に吸収した。待ちわびていたその声は、希望の光のように耳から心臓までを貫き、心に空いた穴を優しく照らした。
「そこ動くな!」
すぐに電話を切り、走り出す。ああ、いちいち地面を蹴らなければならないのがもどかしい。どうしてもっと早く前に進めないのか。リニアモーターカーのように宙に浮いて進めればいいのに。
花屋の前に彼女はいた。人目もはばからず飛び付くように抱きしめた。
「律、ごめんね、私・・・。」
花撫が話し始めた時、店主らしき年配の女性が店の中から出てきて、俺達を見て目を見張った。
「ちょっとあんたら、店の前で何やってんの。」
「す、すみま・・・。」
謝ろうとする俺の言葉を店主が遮った。
「中でやんな。店閉めるとこだから。」
花に囲まれたこじんまりした店内で花撫と向かい合う。店を閉じた店主は気を利かせて奥に入ってくれていた。
「ごめんね、あのね・・・!」
話し始めた唇を塞ぐ。半年の間溜まって膨れ上がったキスを彼女に浴びせた。まるで今日が地球最後の日であるかのように、何かに追われているかのように。
彼女の感触を味わうどころではなかった。自分の唇や舌や手が彼女のどこに触れているかもわからなくなる程に我を忘れていた。
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