ログアウト

1/1
前へ
/13ページ
次へ

ログアウト

 先週、4日間連続の休みがあった。  今の職場に勤めてからそんな事は初めてだった。  ……なのに、どうしてかその時の記憶が全く無いのだ。  同僚に何をしていたのかと尋ねられ、『寝てたんですかね』と答える。皆、冗談だろうと思っていた。でも……本当なのだ。  公園のベンチで本を閉じると、そっと目を閉じた。  心地良い風が通り抜けて、樹々を揺らす音に耳を傾ける。  4日間の記憶は無いのに、心は何故か清々しかった。憑き物が取れたかのように、身体が軽い。  夢を見なくなったからだろうか、夜もぐっすりと眠れている。  ふと、メールの受信に気がつく。  ー父からだ。  【元気にしてるか?そろそろ顔見せないか】  メールの苦手な父親らしい、簡単なメールだった。そういえばまだガラケーだったんだ。  (スマホ、買ってあげようかな)  そう思い立つ。  【来週の火曜に、そっち帰るよ】  返信すると、すぐに父からも返事がきた。  【駅まで迎えに行くから着いたら電話しなさい】  【わかった。その時に、一緒に行きたいとこあるの】  返信しても、それ以上返事は来なかったけど……きっと了解って事だろう。  何だか、不思議な気持ちだった。  今なら、全てを許せる気がした。こんなに穏やかで優しい気持ちになれるのは…いつぶりだろう?  いろんなことを、大切にしよう。家族や、友達や、仕事や…そろそろ、恋もしようか。とは言っても、そればっかりは1人じゃ始めらんないけど。  …そして、自分を大切にしよう。  (ほんと、どうしたんだろう…私)    突然ヒンヤリした風に気がついて、スマホから顔を上げる。と、さっきまで広がっていた青空に黒い雲が勢いよく覆い始めていた。雨雲だ。  次の瞬間、頬に当たる雨粒に慌てて立ち上がる。  それを合図にするかのように、雨粒は数を増やして行き…本格的な雨となった。急いで本をバッグに仕舞いながら、駐車場に向かって駆け出す。  車に乗り込むと、更に激しい雨がフロントガラスに打ち付けていた。  ブルっと身体が震えて、エンジンをかける。  (早く帰ってココアでも作ろう)  家路へと急いだ。  その助手席では、無造作に投げ置いたスマホにLINEメール受信を知らせるピコン♪という電子音が鳴ったのを結衣はまだ知らない。  【結衣、久しぶり。突然ごめんな、元気か?……】  それはあの日別れた、拓也からのものだった。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加