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先週、4日間連続の休みがあった。
今の職場に勤めてからそんな事は初めてだった。
……なのに、どうしてかその時の記憶が全く無いのだ。
同僚に何をしていたのかと尋ねられ、『寝てたんですかね』と答える。皆、冗談だろうと思っていた。でも……本当なのだ。
公園のベンチで本を閉じると、そっと目を閉じた。
心地良い風が通り抜けて、樹々を揺らす音に耳を傾ける。
4日間の記憶は無いのに、心は何故か清々しかった。憑き物が取れたかのように、身体が軽い。
夢を見なくなったからだろうか、夜もぐっすりと眠れている。
ふと、メールの受信に気がつく。
ー父からだ。
【元気にしてるか?そろそろ顔見せないか】
メールの苦手な父親らしい、簡単なメールだった。そういえばまだガラケーだったんだ。
(スマホ、買ってあげようかな)
そう思い立つ。
【来週の火曜に、そっち帰るよ】
返信すると、すぐに父からも返事がきた。
【駅まで迎えに行くから着いたら電話しなさい】
【わかった。その時に、一緒に行きたいとこあるの】
返信しても、それ以上返事は来なかったけど……きっと了解って事だろう。
何だか、不思議な気持ちだった。
今なら、全てを許せる気がした。こんなに穏やかで優しい気持ちになれるのは…いつぶりだろう?
いろんなことを、大切にしよう。家族や、友達や、仕事や…そろそろ、恋もしようか。とは言っても、そればっかりは1人じゃ始めらんないけど。
…そして、自分を大切にしよう。
(ほんと、どうしたんだろう…私)
突然ヒンヤリした風に気がついて、スマホから顔を上げる。と、さっきまで広がっていた青空に黒い雲が勢いよく覆い始めていた。雨雲だ。
次の瞬間、頬に当たる雨粒に慌てて立ち上がる。
それを合図にするかのように、雨粒は数を増やして行き…本格的な雨となった。急いで本をバッグに仕舞いながら、駐車場に向かって駆け出す。
車に乗り込むと、更に激しい雨がフロントガラスに打ち付けていた。
ブルっと身体が震えて、エンジンをかける。
(早く帰ってココアでも作ろう)
家路へと急いだ。
その助手席では、無造作に投げ置いたスマホにLINEメール受信を知らせるピコン♪という電子音が鳴ったのを結衣はまだ知らない。
【結衣、久しぶり。突然ごめんな、元気か?……】
それはあの日別れた、拓也からのものだった。
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