第3章:アラゴニア王都にて(2)

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【7月25日、午前:再び、王立大学へ】  俺たちは再び王立大学へ向かった。  昨日は王立大学が一時閉鎖になったけど、今日からは警備体制を見直して、また自由に見学できるようになったようだ。  前回と同様に王立大学の北門から敷地内に入った。前回よりも大学内を歩いている警備員が多いような気がしたけど、気になるほどではない。  一昨日に技術学部は見学したから、見学順序を見直して、戦闘学部から見学することにした。  技術学部の敷地を南に進むと、王立大学の中央部にある戦闘学部の敷地に入った。大きな石造りの四角い建物があって、それ以外は全て広い空き地や森が広がっている。広い場所を使って、様々な戦闘訓練をするんだろう。所々に大きな大砲や戦闘用の車が置いてある。模型だとは思うけど、かなり物々しい雰囲気だ。  数十人の身体の大きな学生たちが、訓練用の武器と防具を身につけて、戦闘訓練を行っているのが見えた。女性もチラホラいるけど、圧倒的に男性の方が多い。訓練用の柵に囲まれた丸い敷地がいくつも用意されていて、その中で、数人が武器で打ち合っている。何人かは丸い敷地の外で倒れていて、魔法による治療を受けている様子も見えた。 「さすがは戦闘学部。夏休みでも訓練を行っているんだね」 「そうやね。俺はあまり戦闘訓練は得意やないから、見るだけで嫌やね。魔法を使ってもええんなら、なんとかなるんやけど」 「私も戦いは苦手なのよ」  俺たちが話しながら歩いていると、前から防具を身につけた数人の学生らしき人たちが歩いてきた。 「俺は戦闘訓練は得意なんだ。普通学校の成績もトップだったんだよ! って言っても、同じ学年は二人しかいないから、アッシュに勝ち越したってだけなんだけどね」 「そうやね。タツは強いで~。全力で魔法を使わんと絶対にタツには勝てへん」 「ふ~ん……タツって、本当にそんなに強いのかしら? 見た感じは強いのか弱いのか、よく分からないのよね」  通り過ぎる学生さんを、これから訓練を行うんだろうなと思って横目で見ていた。すると、学生さんたちの中の一人が、俺たちに気づいた。 「普通学校の学生さんかい?」 「「「はい」」」 「話が聞こえてしまったよ。王立大学戦闘学部へようこそ。君、強いのかい? 戦闘学部に興味があるのかな?」 「はい。俺は興味があります!」 「いや、俺は戦闘は苦手なんで……」 「私もどちらかと言えば魔法が得意なので……」  興味があるのは俺だけか。アシュリーも魔法を使えば、俺と同じぐらい強いんだけどな。 「せっかく見学に来たんだ。君たち、もし時間があれば、訓練に参加してみないか?」 「「「えっ?」」」  学生さんたちは、背が高くて筋肉ムキムキ。見るからに強そうで、鎧は高級品の輝きを放っている。 「将来、君たちは戦闘学部に入るかもしれないんだろ? どうだい?」 「そう言われても……アッシュ、エリカ、参加してもいいかな?」 「うん。俺は参加せーへんけど、ええよ。見とるから」 「私も見てるわ」  話しかけて来た学生さんたちは、俺たちに興味がありそうだ。 「おお、いいねぇ! 戦闘学部の男は、戦ってみないと分からない奴が多いんだよ。そういうことも理解した上で、進路を判断するといい。武器と防具は練習用のを貸すから、一緒に来てくれ」 「わかりました! やってみます!」 「いくらタツでも、大丈夫かなぁ……」 「タツの実力を見るいい機会かもしれないわね……」  せっかく王立大学に来たんだ。戦闘学部の雰囲気を味わっておくのは悪くない。  俺は練習用の木製の短剣と盾を借りて、戦闘訓練に参加することになった。戦闘学部の学生さんについて行くと、沢山の人たちが剣や魔法を使って戦っていた。  キン!  ガンガン!  ゴウッ!  武器がぶつかり合い、魔法が飛び交う激しい音が聞こえてくる。  俺に声をかけてくれた男性が、一人の男性に声をかけた。大柄な男性で頭はツルツル。ぱっと見た年齢は、だいぶ高齢だと思うけど、身体は筋肉質で、かなり鍛えているように見える。黒色の眼鏡をかけているから表情はわからない。怖そうな雰囲気。腕組みをしながら学生たちが戦っている様子を見ながら、学生たちに戦い方の助言をしているようだ。  でも、この人、どっかで見た気がするなぁ。  俺を訓練に誘ってくれた人が、この怖そうな高齢の男性に声をかけた。 「顧問、こんにちは!」 「おう、遅せ~ぞ」 「申し訳ありません! 家の手伝いがありました」 「そうか、すぐに訓練だ。オメーは一番上のクラスの担当だったな」 「はい! 大学の見学者で、訓練に参加したい者がいるんですが、許可をお願いします」 「おう! そこの3人が参加するのか?」 「いいえ、彼一人だけです。残りの二人は見学するそうです」  俺を紹介してくれたので、顧問と呼ばれた人に挨拶をした。 「はじめまして。コルフ村から来ました。タツヤ・リュウザキです。戦闘学部に興味があります。練習に参加させて下さい。よろしくお願いします!」 「おう、タツヤ。よろしくな。オメーはコイツと一緒に、一番上のクラスで練習しろや」 「えっ?」 「聞こえなかったのか? そうだな……まずは3対1で戦ってみろ」 「3対1ですか? でも、アッシュとエリカは訓練に参加しませんけど……」 「アホか、オメーは。オメーが1人に決まってるだろ」 「お、俺が一人で、相手が3人?」 「ああ、何度も言わせんな。さ、行ってこい!」  俺が王立大学の学生さん3人と戦うってことか。いくらなんでも、そりゃ無茶だ。しかも一番上のクラスだし。  すると、俺を紹介してくれた男性が、ビシッと返事をした。 「はい、顧問! 承知しました!」  えっ? 俺なんかと1対3で戦えって言われて反対しないんだ。 「さ、タツヤ。一番上のクラスは、あの一番広い訓練場だ。行こう!」 「は、はい!」  俺たちは一番広い訓練場に向かった。近くに行くと、2メートルぐらいの高い柵が周囲を囲んでいる。柵には防御魔法がかけられているから、柵に飛ばされても大怪我はしないし、訓練場内で使用した魔法が外に出てしまうこともない。そのかわり、この柵の高さだと、中に入ったら簡単には出られないだろう。  訓練場は直径100メートルぐらいはありそう。コルフ村の学校の訓練場は直径30メートルだったからな。さすが、王立大学の訓練場は超一流だ。
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