第1章:コルフ村にて

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第1章:コルフ村にて

【7月19日、夕方:タツヤとアシュリー】 「おーい、タツ!」  学校帰り。  俺を呼んだ声の方を振り返ると、幼なじみの見知った顔が見えた。 「ああ、アッシュか。どうしたの?」 「ちょっと待ってや、タツ。明日からは夏休みやろ?」 「ああ、そうだけど」 「なんか予定あるん?」 「ううん、特に予定はないけど。夏休みだから、今年も母さんやじいちゃんの手伝いかな。農園警備とか龍舎の掃除だろうね」  ここは、アラゴニア王国のコルフ村。霊峰フジの麓にある、温泉と巨大農園と緑龍で有名な村だ。今、俺たちは村の中央東部にある学校の校庭にいる。  俺の名前はタツヤ・リュウザキ。現コルフ村村長ハヤト・リュウザキの孫で15歳の10年生だ。この国の学校は、6歳になる年に入学して、16歳になる年に卒業するまで10年間通うことになっている。  目の前にいる幼なじみはアシュリー・コーエン。現コルフ村冒険者ギルドマスター、ラリー・コーエンさんの息子だ。俺と同じく15歳の10年生。褐色の肌とチリチリの黒髪と変な話し方が特徴的な、とってもいい奴だ。話し方は彼の父親ゆずりで、西の方の龍たちの話し方だって聞いたことがある。 「俺たちは来年16歳になるんやから、来年の4月で卒業やろ?」 「そうだね」 「タツは卒業したらどうするん?」 「うーん……俺は早く龍使いになりたいんだけど」  ここコルフ村は、昔から「龍使いの村」と呼ばれてきた。これまで、何人もの龍使いを輩出してきたからだ。  この世界には、様々な種族の龍が生活している。近くの森には緑龍がたくさん住んでいるし、遠く東のヤナカ湖には水龍が住んでいる。さらに遠い北の火山地帯には火龍が住んでいて、たまにコルフ村近くの森まで飛んできて狩を行う。  見たことはないけど、はるか北の豪雪地帯には白い龍が住んでいるとか、霊峰フジの頂には、銀色の龍が住んでいるいう噂を聞いたことがある。  そんな龍たちと「友達」になることができれば「龍使い」になれる。 「龍使いねぇ……タツは、もう龍の言葉は完璧なんやろ?」 「ああ。俺は小さい頃から、母さんやじいちゃんから教えてもらっているからね」 「俺も父さんから教えてもらっとるから、少しは話せるけど。それだけじゃダメなのは知っとるやろ?」 「うん。もちろん、それは知ってるよ」  龍使いになれるかどうかは、いくつかの条件がある。  1つ目は龍たちが使う言葉を話せることだ。  龍たちが使う言葉は、一般的に「龍の言葉」と言われている。俺たちが使う普通の言葉とは単語も文法も全く違う上に、話し方がとても早い。だから、話すのも聞くのも、とても難しい。習熟するには、何年もの期間が必要だと言われている。  俺は小さい頃から龍使いになりたくて、龍使いである母さんやじいちゃんから教えてもらって、かなり「龍の言葉」を話せるようになっている。 「これまで、タツは何度も緑龍たちに挑戦したよな?」 「ああ。こないだの春休みにも挑戦したけど、ダメだった」  龍と友達になる条件の2つ目は、龍に認められることだ。  何をすれば認められるかは、龍たちと話してみないとわからない。普通は、龍たちから提案される色んな遊びで戦って勝つか、負けても頑張りを認めてもらえれば、龍と友達になれるって言われている。 「じゃ、提案なんやけどさぁ」 「提案?」 「とりあえず、また緑龍に挑戦してやな」 「うん」 「だめやったら、王都に行かへん?」 「俺とアッシュで?」 「そや、二人で!」 「ええっ! 母さんが何て言うかなぁ……」  アラゴニア王国の王都は、ここコルフ村から、バスで3時間ほど南に行ったところにある。人口百万人以上が住む巨大な城砦都市だ。母さんと一緒に何度か行ったことはあるけど、アシュリーと二人で行ってもいいんだろうか? 「俺さ、昨日、父さんと話したんや」 「何を?」 「俺は来年、ここの学校を卒業したら、王立大学に行くつもりなんや」 「そうか。アッシュは王立大学へ進学希望だったね」 「そうや。俺も将来は冒険者ギルドに就職希望やからね」 「就職か……」  確か、アシュリーの父さんも王立大学を優秀な成績で卒業して、王都の冒険者ギルドに就職した後、この町の冒険者ギルドマスターになったって聞いたことがある。冒険者ギルドは人気の就職先だから、王立大卒じゃないとなかなか就職できないらしい。  俺の母さんは村の学校を卒業しただけで、王立大学には行ってない。じいちゃんは王立大学を卒業したって言ってたな。 「龍使いになれんかったら、タツも王立大学に進学する可能性もあるやろ?」 「うーん、どうかなぁ? 可能性はあるよ」 「担任のライラ先生からも言われとったやん。そろそろ進路を決めろって」 「確かにね」  コルフ村は人口が少ないから、1年生~10年生までで1クラスしかない。先生はライラ先生とグレッグ校長の二人だけ。30人ほどの子供しかいない。同い年は俺とアシュリーだけだ。ライラ先生は、俺とアシュリーの将来を心配してくれている、とっても良い先生だ。 「そやから、一緒に下見に行かへん?」 「王立大学を?」 「そやそや! せっかく夏休みなんやから泊まりで。ゆっくり王都と王立大学を見学したいんや」 「泊まりか。うーん……」 「最後の夏休みの思い出づくりや。一緒に行くで!」 「俺は行ってもいいけど。母さんに聞いてみないと分からないな」 「なら、聞いてみて。明日の午前中にタツの家に行くから」 「わかった」 「なら、また明日」 「おう。じゃね」  俺はアシュリーに手を振って別れた。 ◇◇◇◇◇ ※この物語に「スター」を送っていただくと、設定&短編集を見ることができます! ※スター1個で読むことができますので、よろしくお願いします。 https://estar.jp/extra_novels/25655801
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