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恋人
ただいまも疎かに、不思議そうな顔をする母親の前を通って自分の部屋に入ると、カーペットのうえにぼんやりと座る、肌寒くなってきた季節に相応しくない水色のカーテンが視界に入っているはずなのに、なんだか遠いもののように感じる。
叶先輩が恋人になってしまった。こいびと。その言葉を反芻しただけでぼっと顔が熱くなった。どうしよう!いくら相手が男の人であるとはいえ(いや叶先輩はとても素敵な人だけれど)恋人ってどうすればいいんだろ?付き合おうと言ったからには今までみたいな先輩後輩みたいな関係だけじゃなく、何か他のこともしなくてはいけないのか?
お付合いしているのに前と同じような対応では、叶先輩をがっかりさせてしまうかもしれない。
えぇと、恋人が出来たらしたいことがあったはずだ。学校帰りに制服デートしてみたりとか?でも相手は叶先輩で一緒に遊びに行くのと何が違うんだ?恋人といえば、手を繋いだりとか?
……いや、それはハードルが高い!男同士で手を繋ぐ機会なんてそうそうあるものじゃないし、外で手を繋ぐ勇気も持ち合わせてなんか居ない。
他には?…恋人となるとキスもするんだろうか。待て俺!付き合って数日でそんなことに発展するなんておかしい!そんなふしだらな真似が出来るか!叶先輩に幻滅される。
ふぅ、と一度深呼吸をする。この思考から離れよう。うん。あとは、そうだ。弁当なんかどうだろう?クラスメイトの山崎が彼女の手作り弁当をでれでれしながら食べているのを見たことがある。うん、これなら出来そう!これに決めたと俺はぐっと拳を握り締めたところ部屋のドアがノックされて「夕飯よ」と母親の優しい声がきこえた。
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