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「あ、久しぶり、琴香」
紺色のブレザーに、ストライプ柄の青いネクタイ。チェックのパンツを履いた凌は、部屋を出るなりあくびをする口を閉じて、笑顔を見せた。
「おはよう、凌。今日は、朝から学校に行けるみたいだね」
「うん、仕事入ってないからさ。よく寝たー」
誰から見ても、他校生同士の私たち。
中学に入ったばかりの頃は、高校も一緒に行けたら楽しそうだね。なんて、話をしていた。
だけどそれも、中三の春に、凌がメンズファッション誌のモデルにスカウトされる前のこと。
事務所の方針で、彼が通うには、芸能科がある高校ということになった。
「凌、ネクタイ曲がってるよ」
「ほんと? 今日はうまくいったと思ったのに」
正直、結び方もちょっとあやしいけど、それには触れずに角度だけ直してあげる。
「後ろも寝ぐせ付いてる」
「え、直して」
「相変わらず抜けてるなぁ。凌のファンが見たら、腰抜かしちゃうかもね」
「そうかな」
そんなふうに笑いあって、一緒にエレベーターまで向かう。
乗り込んで、私たち以外は誰も乗っていないエレベーターで、一階のボタンを押した。
「あ、昨日テレビ観たよ。すごいよね、あっという間に有名になっちゃったね」
「俺がすごいんじゃないよ。事務所が仕事を見つけてくれるだけ」
「何言ってんの。凌のママに聞いたよ、今度初めてドラマに出るんでしょ?放送されたら、絶対に観るからね」
「あー……、うん……」
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