37人が本棚に入れています
本棚に追加
読み上げた涼は瞳を揺らして荒木を見上げた。
「水城、死んだのか?」
「飛び降りだって」
「は?」
涼は突然立ち上がると荒木を殴った。骨がぶつかり合うような鈍い音が響く。
「いてぇ」
「お前、何してんの? なんでこんなことになってんの?」
「いや、知らないんだけど」
「は?」
荒木は本当に分からないと言った風に首を傾げた。
「水城は浮気してお前と付き合ってたんだ。あぁお気に入りだったのに」
切れた唇から滲む血を乱暴に手の甲で拭う。
「その手紙にも書いてあるけどさ、ほんとに俺関係ないよな? 水城をレイプしたのは母親の彼氏。見て見ぬふりしたのは隣人。死ぬって決めたのは水城」
「レイプ……?」
「そうそう。半年以上前の話らしいけどね。最初聞いたときはかっとなったけどさ、よく考えたら俺関係なくね?」
「……れ」
「あ?」
涼は拳を強く握って怒鳴った。
「出て行ってくれ! 二度と、二度と俺の前に現れるな。水城の手紙の意味も、最後の会話の意味もようやく分かった。捨てられたのは水城じゃない。お前だよ」
荒木の胸倉をつかみ、強引に店の外に放り出す。
皺が寄った服を片手で伸ばし、スマホを取り出す。
「もしもし、今日暇? お気に入りに振られちった」
荒木はいつもと変わらない平坦な声色で囁きながら、人混みの中に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!