第3章

6/6
前へ
/22ページ
次へ
  読み上げた涼は瞳を揺らして荒木を見上げた。   「水城、死んだのか?」   「飛び降りだって」   「は?」   涼は突然立ち上がると荒木を殴った。骨がぶつかり合うような鈍い音が響く。   「いてぇ」   「お前、何してんの? なんでこんなことになってんの?」   「いや、知らないんだけど」   「は?」   荒木は本当に分からないと言った風に首を傾げた。      「水城は浮気してお前と付き合ってたんだ。あぁお気に入りだったのに」   切れた唇から滲む血を乱暴に手の甲で拭う。   「その手紙にも書いてあるけどさ、ほんとに俺関係ないよな? 水城をレイプしたのは母親の彼氏。見て見ぬふりしたのは隣人。死ぬって決めたのは水城」   「レイプ……?」   「そうそう。半年以上前の話らしいけどね。最初聞いたときはかっとなったけどさ、よく考えたら俺関係なくね?」   「……れ」   「あ?」   涼は拳を強く握って怒鳴った。   「出て行ってくれ! 二度と、二度と俺の前に現れるな。水城の手紙の意味も、最後の会話の意味もようやく分かった。捨てられたのは水城じゃない。お前だよ」   荒木の胸倉をつかみ、強引に店の外に放り出す。   皺が寄った服を片手で伸ばし、スマホを取り出す。   「もしもし、今日暇? お気に入りに振られちった」   荒木はいつもと変わらない平坦な声色で囁きながら、人混みの中に消えていった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加