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プロローグ
7歳の夏、家族で遊園地へ行ったときのことだ。
嬉しくて嬉しくてテンションの上がった私は、みんなを入口付近にあった迷路に誘った。
暗い入口をくぐると、中は一面ミラー張りになっていて、鮮やかなイルミネーションに彩られていた。そしてどこを見ても自分たちの姿が映る非日常。
「きれい…」
あまりに興奮した私は家族を置いてどんどん進んでいき、ある場所でミラーに激突した。
「あれ…?」
気が付けばいつの間にか家族とはぐれてしまっていた。その上迷い、進むことも戻ることもできない。
「おかあさん…?」
気が付けば映るのは自分の姿だけ。急に怖くなって声を上げて泣いた。
ミラーに映る自分は、永遠にどこかへ続いてゆく。他のお客さんもいなくて、一生自分はここから出られないのかもしれない…お化けにどこかへ連れていかれてしまったらどうしよう。動くことさえも怖くなってしまった。
「きみ、まよったの?」
気配はなかった。気が付けば後ろに、同い年くらいの男の子が立っていたのだ。目が大きくて、可愛い男の子だった。
「かぞくとはぐれちゃってねぇ、でられなくなっちゃったの!」
初対面の男の子に、泣きながら抱き着いた。怖くて、もう二度と一人になりたくなかった。
「ぼく、このめいろよくくるんだ。ついてきて!」
男の子はにっこり笑い、私の手を取り走りだした。どれだけミラーに騙されても迷うことなくあっという間に出口にたどり着いた。
「あ、ありがとう…!」
外の光はまぶしいほど明るくて、一気に現実に引き戻された。
「ううん。きをつけてね」
「あなたはでないの?」
「ぼくは…、かぞくをおいてきちゃったから!ここでまっておかなくちゃ」
何故かは今も分からないが、どこか悲しげに見えた。
「千代!」
出口には先にゴールした家族が待っていた。
「おとうさん、おかあさん!あのね、わたしまよっちゃって、このこに…」
振り返るともう男の子はいなくなっていた。
またね、って言いそびれちゃったな。
つないだ柔らかい手の感触がまだ残っていて、胸がドキドキした。
男の子の笑顔を思い出すと、胸がきゅーっと痛くなった。
その後男の子を探したけれど、もう会うことはできなかった。
そしてその初めての気持ちは、いつの間にか甘酸っぱい思い出へと変わっていた。
それから十年の歳月がながれ、縁あって久しぶりに親友の美紀と二人で再びその遊園地に訪れることになった。
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