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前兆 ―― 偶然のイタズラ ②
『―― 静流』
と、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、40代前半位の男性がやって来る。
どことなく、柊二や大吾先生に似てる……
「あー、紹介するわ。私のフィアンセ・各務広嗣っていうの。
ひろくん? 彼が大親友の桐沢倫太朗よ」
各務だって?! 似てるハズだよっ。
柊二のもう1人のお兄さんだ。
そして、各務の社長。
うわぁ~……なんか、威圧感が半端ないな。
先輩がいつの間にか婚約してたって事にも
驚かされたけど。
まさか、その相手が各務家の次男だったとは
2重の驚きだ。
「―― キミの事は静流から色々聞いていました。
真面目で勤勉な上にとても優秀な産科医だとか」
「いえ、買い被りです……」
「来年には弟もいよいよ家庭を持ち、何かと忙しくなる
だろうから、支えてやって欲しい」
え? 弟も、家庭を ―― って、
大吾先生はもうまりえさんとももちゃんがいるから。
じゃあ、柊二が……?
「あら、広嗣さんったら何も今言わなくたって……」
それ、どーゆう意味?
「何故だ? おめでたい事なのだから何も不都合は
ないだろう?」
と、彼はボクに視線を移した。
「なぁ? 桐沢くん」
「え、ええ……」
ボクはもう、頭の中が真っ白になりかけで、
そう応えるのが精一杯だった。
「早く結婚をして落ち着いてくれた方が部下達にとっても
いい事なんだ。桐沢くん、キミもそう思うだろ?}
にこやかに、ほほ笑みを絶やさず、
ボクへ語りかける広嗣さんは ――恐らく、いや、
ほぼ100%柊二とボクの関係を知っている。
「……おっしゃる通りだと思います」
それから後、この広嗣さんと別れるまで何を話したか?
そして、このホテルからアパートまでいつの間に帰ったのか?
まるで、覚えていない。
結婚 ―― 柊二が結婚。
ただその言葉だけが、脳裏にこびり付いて離れなかった。
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