VS 各務広嗣

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VS 各務広嗣

 ㈱各務製薬は神田小川町に建つ瀟洒な**階建てビル。  その威風堂々とした風格のある外観に圧倒されつつ  ボクは玄関ホールへと足を踏み入れた。  1階の総合受付で自分の名前を告げ、  3時から各務社長と約束がある旨を告げると  エレベーターで最上階までどうぞと指示され、  向かった**階で待つこと数分……  昨日電話で話した秘書の高田さんがやって来た。 「お待たせ致しました、高田と申します」 「桐沢です」 「社長がお待ちです、こちらへどうぞ」  フロアー最奥の部屋のドアを高田さんがノックした。 「桐沢様をお連れ致しました」 「どうぞ」  目線の先、各務広嗣が重厚な執務机に座っていた。 「やぁ、久しぶりだね、どうぞ」 「失礼致します」  2人で応接セットのソファーへ移動。  向かい合わせに座ると高田さんがお茶を  出してから、出て行った。 「驚いたよ。キミから連絡が来るなんてね」 「部屋のカギをお返しに参りました」  ボクはテーブルへマンションのカードキーを置いた。 「出て行くのか?」 「はい」 「そうか」 「……新聞を見ました、人事異動の」 「あぁ、あのバカが両親へ好きな男がいるなんて  いきなりカムアウトしたもんだから、  ショックのあまりお袋が卒倒して、親父は怒り狂って  柊二を殴りつけ、臨時役員会の満場一致で  懲戒解雇処分になった。その後すぐあいつは実家に  軟禁されたよ」 「そう、ですか……」  ボクはひざ上に置いた手を握り直し、  ゆっくり息をついて切り出した。 「お願いがあります」 「何かな?」 「柊二さんの処分を取り消して下さい」 「キミにも分かるだろうが、既に決定し公表してしまった  処分を覆すにはそれなりの理由が必要だ。  会社の信用問題にも関わるからな」 「分かります」 「……仮にだ、私がキミの願いを聞き入れるとしたら、  キミは私に何を差し出す?」 「今後一切、柊二さんには会いません。  マンションを出るのもその為です。  携帯端末類の電話も番号を変え、彼からの連絡にも  一切応じません」 「それをどう、私に信じろと?」 「*月には日本を離れます。少なくとも2年は  帰国しない予定です」 「……分かった、会長とも相談して、前向きに検討して  みよう」 「ありがとうございます。では、これで失礼します」  立ち上がり、一礼して戸口へ向かうと、  先に外からドアが開いて、静流先輩が現れた。 「倫君……今、あつしから連絡もらったの」  先輩の顔は心なしか青ざめて見えた。  あつしから大方の事情を聞いたのだろう。 「そう……って事だから、日本を発つ前に1度集まって  食事でもしましょうね。また、連絡します、じゃ」  先輩にも一礼して廊下へ出た。 『りんっ!』 「追うな」 「どうして?!   あなた一体あの子に何を言ったの??」 「他愛無い世間話しさ」 「ふざけないでっ」  広嗣は廊下に控える高田に言いつける、 「高田」 「はい」 「彼が来た事は柊二には一切言うな。役員達に招集を  かけてくれ。集まり次第、役員会を開く」 「畏まりました」  何時になく厳しい面持ちの婚約者を見て不安になり、  静流は恐る恐る訊ねる。 「……何をする気?」 「予定通り柊二は藍子さんと結婚させる、それだけだ」 「きっと柊二は最後の最後まで足掻くわ」 「それでも動き出してしまった歯車は、もう誰にも  止められないんだ」 「……」  
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