その頃、柊二は……

1/1
前へ
/64ページ
次へ

その頃、柊二は……

 その頃、㈱各務では広嗣の緊急招集で開かれた  役員会も無事(?)終わり、     静まり返った会議室に、憮然とした表情の広嗣と  もぬけの殻のようになった柊二だけが残っていた。 「……あんな決定、オレは承諾しない」 「これは彼 ―― 桐沢くんの希望でもある」 「嘘だっ!」 「今日、会社へ来てお前の処分を取り消してくれと  言われた」 「ふんっ ―― 兄貴は他人から言われただけで素直に  応じるようなタマじゃないだろ」 「……マンションから出て行く事、そして今後一切  お前とは接触しないという提示をされ、私は  その条件を呑んだ」 「!!……」 「携帯電話の番号も変えるそうだ。……私の所へ来た  彼は手の色が変わる程ギュッと手を握りしめ、  体も震えてた」 「倫……」 「本気にお前の事を思った末での決断だと思った、  だからお前も彼の事はすっぱり忘れろ。……  彼の誠意を踏みにじるな」 「……オレの気持ちは完全無視かよ」   ショックで呆然とする柊二に   「仕事に打ち込め」とひと言残し   匡煌は出て行った。   柊二は震える手でタバコに火を点ける。   取り出したスマホで倫太朗の番号へかけてみるが、    ”お掛けになった電話番号は     現在使われておりません”   と、無機質なテープの声が聞こえてきた。   あいつが、オレの前からいなくなる?   姿を消した? ―― 嘘だっ!   倫太朗は”待ってるから、早く帰れ”と   言ってくれた。   あいつがオレに嘘などつくハズがない。   きっとこれは何かの間違い……   そう、悪い夢だ。   いつものように帰れば、   倫太朗は笑顔で迎えてくれる。   柊二はタバコをもみ消し立ち上がると、   小走りでエレベーターへ向かった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加