From 柊二

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From 柊二

 倫太朗は俺を待っていてくれる、  そう信じていた。  スピード全開でマンションへ急行し、  パーキングへ車を停める。  エレベーターを降り、部屋のドアにカードキーを  認識させようとするが、  元々この作業は苦手で手間取り、  認識したピーッという電子音と同時に  ドアを蹴破る勢いで開け、室内へ。 「倫っ!」  名前を叫びながら各室を探し回る。  あいつの私室にとあてがった一室 ――  至る所に積み重なっていた医学書の類は  綺麗さっぱり消えてなくなり。  クローゼットの俺が買った服とアクセ等は  そのまま残されていた。  そして、とどめは、テーブルの上に  メモと一緒に置かれていたプラチナのリング。   ”柊二、嘘ついてごめんなさい。    あなたは自分の道を奥様と歩いて下さい”  何が奥様だよ……  俺のパートナーは倫太朗、お前だけなのにっ。  俺はリングを握りしめ、その場にへたり込んだ。 「倫? 俺を1人置いて行っちまったのか?   本当にもう帰って来ないのか?……  お願いだから、嘘だと言ってくれ、倫……」  本当のお袋が死んだ時以来、初めて泣いた。  世間体なんて下らないもん、とうの昔に捨てていた、  各務とも縁を切る覚悟でいたのに……っ。 「戻って来い、倫太朗……愛してる」
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