生と死の間(はざま)で

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生と死の間(はざま)で

 照明の落とされた薄暗い廊下で、  倫太朗はベンチに座らず壁に凭れて佇んでいた。  倫太朗は自分も柊二の手術に立会いをと望んだが、   『ここは我々に全てを託して欲しい』と  この救急病院のスタッフに言われ、  手術室前の待合所で待機していた。  公衆電話であつしらに連絡も入れた。  ご家族への連絡は利沙がしてくれる事になっている。    壁に掛かった時計を何度も見返す。  間もなく日付が変わろうとしている。  浮き立つ気持ちを無理に押さえ込み、  落ち着かせようと努力する。  柊二が生きていてくれさえすれば、それでいい。  倫太朗は必死に柊二の無事を祈った。 『倫っ』  バタバタっと足音がして名前を呼ばれた。 「あつし、利沙……」  心強い存在がにホッとする。 「―― 柊二の容態は?」  倫太朗は黙って『手術中』の赤ランプを見つめた。 「「……」」 「……治が刺したってマジかよ」 「あいつ、捕まったんじゃなかった?」 「……でも、待ち伏せてたんだ」  少し遅れて小走りにやって来た、広嗣と静流、  そして弁護士・岩沼に一同の視線が向く。  倫太朗は広嗣に向かって深々と頭を下げた。 「すみません、ボクのせいで柊二さんは……」 「事情はどうであれキミには怪我がなくて良かった。  今は手術の無事成功だけを祈ろう」  神妙な面持ちで黙りこむ一同。  岩沼が申し訳なさそうな表情で口を開いた。 「……桐沢くん、取り込み中申し訳ないが、所轄署の  捜査官が早いうちキミにも事情を聞きたいと言って  きている。私と一緒に来てくれないか?」 「はい、もちろんです」  倫太朗は『手術中』の赤ランプをもう1度見やり  岩沼と共に立ち去って行く。 ***** ***** *****       結局、警察での事情聴取は繰り返し・繰り返し  同じ事ばかりをしつこく聞かれて、  いい加減クタクタになって、担当捜査官に殺意さえ  覚えそうになった頃やっと開放されて。  ハウスの部屋へ帰り着いたのは明け方近くだった。  シャワーを浴び、ベッドへ寝転がる。  ナイフの柄に指紋が残っていた事と、  迫田に前科がある事から彼の逮捕は  時間の問題だと刑事に言われた。 「あいつは、ボクを殺そうとした……」  なのに、柊二が自分の身代わりになって……。 「バカだよ、こんなボクのために……しゅじぃ……」  警察からの帰りがけ、  柊二の手術は無事成功したと知らされ、  ホッとひと安心。  でも、刺さったナイフの刃先が僅かに内蔵まで  達していた為、しばらくICUへ入って術後の  経過も注意が必要だという、  出来れば自分がずっと傍に付き添っていたかったが、  叶わぬ事だと分かっている。  白々と夜が明ける……。  肉体的にも精神的にもくたくたに疲れ切っている  ハズなのに、  頭は妙に冴えていて眠れない。  何度も寝返りを打つ。  眠る事を諦めた倫太朗は、  柊二に想いを馳せながら  出勤時間までを過ごした。
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