とある救急病院の特別室にて

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とある救急病院の特別室にて

「―― 馬鹿がっ! 何を考えてるんだ?!   藍子さんを置き去りにして桐沢とこそこそ逢引し、  挙句妙な男に刺されるなんて、恥晒しもいいとこだ」  広嗣はやっと一般病棟に移った、  満身創痍の柊二にダメ押しの怒号を浴びせる。 「なのに、何故だ?   何故、藍子さんの付き添いを拒む?」 「その理由は兄貴が一番良く知ってるんじゃないか?」 「なにっ」 「倫太朗が本当に俺を嫌いになったんなら諦めもつく。  だが、会社の為、俺の為と自分をごまかして、  勝手な思い込みで俺の前から姿を消した。  んなの、納得出来っかよ」 「お前、この期に及んでまだそんな事を……」 「各務家の人間として結婚はする。だが心は別だ。  そこまで誰にも文句は言わせない」 「っ……」 「出て行ってくれ」  柊二は広嗣へ背中を向けた。  広嗣はため息をつきながら、何も言わずに  病室から出て行った。  しばらくして柊二は、傷口を庇うようにして  起き上がり窓辺に立った。  薄れゆく意識の中で最後に見た倫太朗の  情けない顔が脳裏に焼き付いて、  忘れられなかった。  でも、あの場に居合わせる事が出来て  本当に良かったと思う。  もし、あの時自分が傍にいなければ、  倫太朗が刺されていた。  守る事が出来て本当に良かった。  柊二は静かに微笑んだ。 
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