パートナー 発展編 最終話

1/1
96人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ

パートナー 発展編 最終話

 親友・あつしに背中を押されて柊二の見舞いに訪れる倫太朗。  夜中の病室で2人きりになった柊二と倫太朗は……。   回診・検温・食事・入浴……等、  入院生活での時間は淡々と過ぎてゆく。  あっという間に感じる時もあれば、  大抵は時間と暇を持て余す。     そのうち読めればと、  買っておいたベストセラー小説を  5冊も読破してしまったし。  内科のように体の内部疾患で入院中の患者とは違い、  大抵が外傷だけの外科入院病棟の患者は、  傷が快方に向かってくると入院中のくせに元気一杯で、  柊二はそんな暇人達とも結構仲良くなった。  でも、一番の驚きは ――  生活のリズムが規則的になって、時間になると自然に眠くなり。  翌日の起床時間まで1度も途中で目を覚ます事なく  ぐっすり熟睡出来るようになった事。  時間は間もなく午後9時。  平常時の生活をしている時はこんな時間に床へ就くなんて、  倫とHする時以外考えられなかったが、入院生活の夜は早い。  そろそろ、準夜勤の看護師が巡回にやって来る。  頃合い良く、柊二も目がショボついてきたので  読みかけのビジネス書をサイドテーブルへ置いて、  ヘッドレストのスタンドへ手を伸ばしかけたその時。  誰かがこの病室のドアノブを静かに回す気配がした。  柊二はスタンドへ伸ばしかけた手を元に戻し、  とっさに寝たふりをキメこんだ。  何故そんな事をしたのか?  自分でも良く分からない。  ただ、何となくそうしなきゃいけないような  気持ちに駆られたんだ。  その訪問者は何故かドアを開ける事自体を迷っている  ように思えた。  なら、どうしてこの病室の前まで来たのか?  柊二にしてみりゃ謎だ。  訪問者はなかなか入って来ようとしない。  カチ カチ カチ カチ ――――  静かな病室内に時を刻む時計の音だけが響く。  数分後……開いたドアから、意を決したように  入って来た訪問者は ――。  倫太朗だった。  (嘘だろっ ―― やっべぇ……   俺、めっちゃ嬉しい)  しかし、何で今になって自分の所へ?  ”逃がした魚は大きい” と今になって  やっと気が付いた、とか?  アハハハ ―― そりゃないわな……。  柊二がそんな想いで寝たふりをしたまま悶々と  していると、倫太朗はまだ幾分迷いがあるような  足取りで。  ゆっくり柊二の横になってるベッド脇へやって来た。  もしかしたら、  これが2人きりになれる最後のチャンス?  一瞬、こんな考えが柊二の頭に過ぎった。  それが気持ちを余計に急かせて、  柊二は今すぐにでも倫太朗を力いっぱい抱きしめたい  衝動と必死に戦った。  時には2~3歩下がって状況を冷静に見極める事も  必要。  今回の一連の騒動で得られた貴重な教訓。  倫太朗に気付かれないよう薄目を開け  倫太朗の様子を伺う。  倫太朗は今にも泣き出してしまいそうな  情けない表情でベッド脇に佇み、  柊二をじっと見つめている。  ―― 倫? 今でこそ、お前の本当の気持ちが  知りたい。  それから倫太朗は、そうっと柊二の顔に触れ、  優しく頬を撫でて 手を握り頬ずり…… 「……ごめんね、柊二……」  違う! 俺が聞きたいのはそんな詫びの言葉  なんかじゃない。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!