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***  成人式を迎え、何事もなく大学も卒業し、就職活動も上手く進んだ僕と美玖。幼馴染でもあり、親友でもあった関係は今、恋人という関係性が強く主張していた。  僕はもう、過剰に緊張することはかなり減った。手を繋ぐことも、抱き締めることも、泊まりも難なく出来る。美玖の言動には時々不意を突かれるが、今だって何があっても愛おしく思っている。そこは変わらない。  新しく知ったことがいくつもある。まずひとつ、美玖はお酒に強い。一緒に飲んでいると先に酔潰れるのはいつも僕だった。とはいえ限度ある飲み方をしてはいたけれど、美玖に負けるのは少しだけ悔しい。  そして、美玖は僕がいると甘えがすぎるようだ。一人暮らしになったことで、家事などはやらなきゃいけない環境になり、美玖はどうにか家事と大学……今では仕事と両立していた。面倒くさがりだとは言え、流石の美玖も頑張っているんだな、とか思っていたのだが……。  僕がいると甘えてくる。家事など放置されている。毎日放置されてるわけでなく、美玖はできることを知っているので、そこにマイナスの印象を持つことはない。しかし僕がいるときにだけそんな一面を見せてくるのは、また愛おしくなってしまうというか、何というか。  まぁ、あとは……いろいろだ。  同棲を始める話は、いよいよ本格的になってきた。同棲するならまた引っ越すのか。家具はどうするのか。費用は、日程は、場所は、とさまざまな話し合いを重ねている。  話し合う度に迫ってくる同棲。夢のようだったのに、もう現実になろうとしていることに実感が湧かない。寝ても覚めても、仕事が終わって帰ったときも、家に美玖がいる未来に、くすぐったい思いを抱えながら、どれだけ幸せなんだろうかと考えている日々だ。  あと数回の話し合いが終われば、すぐにでも同棲が始まりそうだ。楽しみにしているのは僕だけじゃない。美玖だって毎回毎回、嬉しそうに「もうすぐだね」と言ってくれる。その反応を見ることさえ、既に僕の幸せだった。 「ねぇ、同棲始めたら家事の分担どうしよっか。私、悠真のご飯まいにち食べたいなぁ、なんてっ」 「えー毎日? いいけど、たまには美玖のご飯も食べたいな」 「いいんだ!! でもちゃんと交代制にしようね、ゲテモノ作っちゃったら後処理はよろしく……」 「大丈夫大丈夫。美玖はゲテモノ作るほど下手じゃないでしょ」 「へへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃーん」  今日も、話し合い兼お泊まり会だった。夕飯も風呂も済ませて、ベッドの上で隣同士、ごろごろしながらスマホを弄る。互いに視線は交わらせないものの、会話は止まることなく弾んでいた。  SNSを何の意味もなく見ながら暇潰ししていると、先にスマホを閉じた美玖が僕の腕に絡んできた。表情を見るに、スマホに嫉妬し出したんだろう。  自分も弄ってたくせに、とは思うが、突然嫉妬を始めるところもあいにく可愛くて仕方ない。昔から変わらず、今でも随分と盲目なままだ。自覚はあっても直せるものじゃないから諦めている。  幸せだ、と何度でも思えた。不満や不安は驚くほど一切なくて、会う度に、言葉を交わす度に好きにさせられている。いつまで美玖に魅了され続けるのだろうかと考えて、笑ってしまう程に。  だから、別れなんて考えたことなかった。それに、美玖から離れるなんてことは考えられなかった。ずっと順調に、このまま幸せに、いられると信じて疑わなかった。
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