第27章 何が幸せかはわたし自身で決めることにした。…から。

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わたしはそのまま動けずにいる彼の前に屈んで、ジーンズの前に手をかけてあやすように言い聞かせる。 「いい子にしててね。…わたしが頑張って雅文くんの身体を。ちゃんと気持ちよくして、あげる…」 「待てって、歌音。…そのままじゃ」 彼の膝の上に跨ろうとするわたしを押し退けかけるほど本気で焦る彼。やっぱ駄目か。雰囲気と勢いに流されて理性が飛ぶ、ってわけにはいかなさそう。 そこは時間をかけて彼を説得していくしかないか。どさくさに紛れて既成事実を作って結果で押し切るのはわたしだって本意ではない。 素直にリビングの引き出しの中から箱を出して中身を一つ取り、手渡してあげる。彼は俯いてそれを手早く自身に装着した。焦るあまり縺れかけるその手つきを見て、このままわたし主導で交わること自体については。特に吝かじゃなさそう、と判断してわたしは先を続けることにした。 彼にもう一度キスをして、胸やそこを触ってもらう。夢中で弄るその指の感触で既に充分濡れてる、と判断して彼の膝の上で大きく脚を開いてその上に跨った。 ゆっくりと腰を落としてその猛りきったものを中に迎え入れると。彼が何かに撃たれたように身を震わせて、小さく喘いだ。 「あ…っ、歌音。…狭い…」 「あぁっ、だって」 自分の中がきゅうん、ときつく締まってそれに喰いつくようになって緩まない。弁解する言葉も出てこなくてわたしは呼吸ばかりを弾ませた。だって、これ。…挿れるだけで。すごく、いいんだもん…。 わたしの状態を察した彼が、身体を解そうとしてか胸や前を優しく弄り始めた。あっという間に蕩けて彼を含んでいるそこが濡れ拡がる。堪らず腰を弾ませると濡れた恥ずかしい音が辺りに響いた。 「あっ、あぁんっ」 腰の動きが止められない。びくびくと感じながら激しく動いて彼のものを中で味わい尽くすわたしに、雅文くんは柔らかいいやらしい声で囁いた。 「歌音。…恥ずかしいな。いくら何でも濡らし過ぎだろ、ここ」 「いやぁ、言わないでぇ…」 やっぱり意地悪く責められるとぞくぞくする。夢中で腰を回しながら羞恥で身悶えするわたしの前を焦らすように捏ねながら、彼はねっとりと声をかける。 「そんなに感じてるエッチな顔全部晒して。男の上で腰振って止まらなくなるなんて、本当にお前は。…いやらしい好き者の身体だよ」 「あっ、だって。…雅文くんのだから、これ」 わたしは感じてる顔を隠しようもなく間近な彼に向けて、頬を上気させたままで必死に訴えかけた。 「男の、じゃない。…雅文くんのだよ。あたし、これだけなの。こうやって、中で。…感じたいのは」 腰を上下させ、激しく音がするほど動かしながら中でその感触を味わう。彼が苦悶に似た表情を浮かべてるのを見つめてうっとりと中を締めつける。…すごく、素敵。気持ちいい…。 「あたし雅文くん、だけ。なのぉ…。これだけで。一生。…他には、何も」 「あ、ぁ…。かのん」 彼はぶるぶると身を震わせ、縋りつくようにきつく膝の上のわたしを抱きしめた。 「俺も。…お前だけ。こんな、可愛い身体…。ほかの、やつに。なんか」 「あっあぁっ、放さないでぇ…」 彼も腰を下から激しく弾ませる。奥を荒々しく突き上げられて、わたしはあられもない声を上げて大きくのけぞった。 こんなに、すごく、されたら。…もお、我慢なんか。できないよ…。 わたしは濡れた目で間近な彼の瞳をひしと見つめて訴えた。 「いっちゃう。あたし…、は、ぁ。もお、いっても。…いい?」 掠れた声で許可を求めると彼が何かを抑えかねたようにきつくわたしを抱きすくめた。 「いって。…歌音。俺で、いくとこ。…見たい、から」 「あっあぁんっ、も、だめ…っ」 無茶苦茶に唇を求め合いながらぎゅうぎゅうと身体を押しつけ合う。わたしの身体が制御できず激しく弾むように痙攣したのを感じて、彼が安堵して力を緩めたのがわかった。 ぐったりしたわたしがずり落ちないようにしっかりと抱き抱えて愛おしそうに頬を寄せてくれる。わたしは余韻でじんじんとあちこちを痺れさせながら何とか彼にしがみついて尋ねた。 「ちゃんと、いけた?…雅文くんも」 「当たり前だろ。ぎりぎり何とか。…もち堪えたよ。油断したらお前よりずっと先に。あっという間に終わっちゃいそうだった…」 「そんなの。別に我慢しなくていいのに」 わたしたちはひしと抱き合い、愛おしい気持ちを何とか伝えようとお互いを手のひらで撫でたり身体を甘くすり寄せ合ったりした。まるで恋人同士みたいに、…って、恋人か。とっくに。 自分たちがどういう段階にいるのか時々わたしは混乱する。お互いの気持ちを確かめ合うよりずっと前から心も身体もこの人に夢中だから。好きだ、って既にこの人に伝えたあとだっけ?って一瞬わからなくなるときがある。 もう気持ちを隠したり探り合わなくていいんだ、って思い出すとほっとする。好きを全開にしても引かれることはない。思いきり甘えても大丈夫なんだって。 「わたしね。…こんなに幸せだから。同じくらい雅文くんを幸せにしたい。そのために何ができるかって。ずっと考えてるの」 「そんなの。…とっくに俺の方が幸せだよ」 出会った最初の頃からは想像もつかない、甘さがだだ漏れた声で彼が頬ずりしながら囁いた。 「お前は何にもする必要ない。ただ、そのままで。今みたいに俺のそばにいてくれるだけで。…いいよ」 「やっぱり。わたしにいてほしいんじゃん」 そう指摘すると彼はしまった、と思ったのか反射的に軽く固まった。 わたしはどこか勝ち誇って裸のまま、服をしっかり着込んだ彼の膝の上でその首っ玉にかじりつく。 「じゃあ、雅文くんが一番ほしいものをわたしからあげる。…わたしがこれからもずっとこのままそばにいて、離れずにいてあげるから。…それって、つまりはさ。結局結婚ってことだよね?」 「まあとにかくおめでと、川田くん。ここに至るまでいろいろあったけど、ようやく年貢の納め時みたいね?」 「なんか、古い言い回しだなぁ…」 俺は半分毒気を抜かれて力なく呟いた。 気を取り直して、隣で好奇心にわくわくと目を輝かせてる彼(?)に辛抱強く説明する。 「別に、今すぐどうこうって話じゃないよ。あいつはまだ若いし。これから大切な時期だから…。いろんなことがもう少し形になって、仕事も生活も余裕が出てきてからでも遅くないって。そういうことで落ち着いたから」 「でも、歌音ちゃんからプロポーズされたこと自体は。事実なんでしょ?」 それは知らされなくても先刻承知、とばかりにあっけらかんと言い放つ難波さんに返事をする気も起こらず、俺はため息をついた。 何でそんなこと早くもあんたが知ってるんだ。とか、あえて追及する気力もない。俺の関知する隙もなくあっという間に想定外のネットワークが出来てしまった、らしい。
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