第27章 何が幸せかはわたし自身で決めることにした。…から。

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「お帰り。…疲れたろ、こんな遅くまで。仕事大変だったな。ご飯できてるから一緒に食べよう。それともまずは風呂が先か」 「…なんか、気のつく甲斐甲斐しい奥さんみたい。ごめんね、雅文くん。本来ならわたしがそっちの役割なのに」 申し訳なさそうに肩をすぼめる歌音。何言ってんだ。 俺はパソコンをはたりと閉じて立ち上がり、彼女の方へと向かった。可愛らしい小さなその姿を目にするだけで自然と顔が綻んで優しい気持ちになる。 「お前も今どきの子の割に考え古いな。こういうの、男とか女とか関係ないよ。時間の都合の合う方が担当するってだけの話だろ。…それにお前が帰宅する前に準備や支度済ませとけば。二人で過ごす時間、それだけゆっくり取れるんだから…」 「ん…っ、は、…ぁ」 抱きしめて深くキスしてやると素直に舌を絡め返してきて、甘く身を震わせた。こいつ、本当に感じやすい。こうして触れるだけで何もかもどうでもよくなるくらい。…ぞくぞくする。 試しに服の中に指を入れて弄ると、まるで待ちわびてたみたいに脚を開いて腰を動かした。蕩けるそこが指に吸いつくように絡む。 歌音はあどけない顔を上気させて、我慢できないように喘いだ。 「あ、ぁ…。あたし、もぉ」 「帰るなりこれか。…ご飯より風呂より。…まずはベッド?」 俺に柔らかく摘まれたそこを嬉しそうにびくびく痙攣させ、恥ずかしげに頷いた。 「うん。…雅文くんに。あれ、挿れてほしい…」 「エッチな子だなぁ、歌音はほんとに。俺のこれのことなんか考えながら。ここ濡らして、ずっと外歩いて家まで帰ってきたのか」 「あぁん、だってぇ」 腰を回して俺の指を含んで中で味わう。その羞恥に塗れたはしたない動きを感じるだけで。…もう、無理。 俺は荒々しくその小さな身体を抱き上げ、でもそっとベッドの表面に仰向けに下ろした。大切に、壊さないように扱わないと。俺の人生で最初で最後の、大事なたった一つの宝物。 この先これがどう終わるかはまだわからない。この子が今望んでるとおりに二人で幸せになれるのか。それともやっぱり今はお互いのぼせてるだけ。結局はいろんな些細な行き違いからずれが生じて何もかも終わりになるのか。結末は予測不可能。 だけど、自分のことはともかく。歌音が幸せで満たされてるかどうか、日々それだけを考えていけばいい。そのために何ができるかひとつ一つをこなしていこう。俺にはそれができる。 そのためにいろんなことを乗り越えて。ここまで大人になったんだもんな。 茜にあんな思いさせて酷い仕打ちもしたのに。許されて、今ではこんな綺麗な特別な女の子にどういうわけか求めてもらえて。分不相応に幸運なのは間違いない。そのことに感謝しつつ、受け取った分はどうにかしてどこかへ返すべきだ。それだけ身に余るものをもらっている。 この子にとっていつか俺が必要ない、ってなるまでの間はとにかく何としてでもずっと寄り添っていこう。入籍するのがベストな解決策ならそれはそれで検討するしかない。結婚だって、子どもを作って育てるのだって。 こいつの気持ちが変化したらそれはそれ。どうなったってその時にまた立ち止まって考えればいいんだ。今から先回りして怖がってたってしょうがない。 別れるのも歌音を自由にしてやるのも、それしかないとなればいつでもできる。常にその覚悟をしっかり腹の底で決めてさえおければ。 無茶苦茶なことまでしてこいつを引き留めようとはならないはずだ。だから、今は。 こうしてこの幸せに溺れてもばちは当たらない、…のかも。 彼女の服を剥ぎ取り、滑らかな火照った肌にうっとりと身を埋めながら。俺の意識はいつしか甘い快楽の中に深く沈んで溶けていった。 茜さんはわたしたちがどうやって知り合ったか、その経緯を雅文くんにどう説明するかを真剣に考えてくれた。 「わたしたちお互いを知ってるってことわざわざ隠し続けるほどの話でもないし。だけどまあ、あいつがどう受け止めるかはわからないけど。今の彼女がこっそり自分の跡を尾けて前の女の家を突き止めたのがきっかけで、なんて。…さすがにちょっと微妙な気持ちになってもおかしくないか…」 「ええと、できたら。…それは」 わたしは今さらながら色を失って口ごもった。…どん引きされたらどうしよう、彼に。 あの人はわたしに優しいから。そのことを知っても腹を立てたりはしないのはわかってるけど。そこまでして自分に執着してるのか、って思われたら。…なんだか情けなく哀れに思われるのは避けがたい気がするし。普通に考えたら呆れるか引くよな。 彼女は笑って何でもないことのように気軽な口調でわたしをとりなした。 「まあ、そこはなんとでも。ごまかしようがあるでしょ。あいつにいちいち説明なんかしないでずっと黙って何食わぬ顔してても別にいいっちゃいいんだけどね。…ああ、でも無理か。あの子たちが奴に話すに決まってる。考えてみたら」 「そうか、リュウくんとコウくん…」 わたしは頭を抱えた。茜さんが適当に濁したりせずに二人にわたしを雅文くんの彼女だ、と紹介してくれたのは結構嬉しかったけど。…当然次に会ったときに、こないだうちに川田くんの彼女来たよ!って話になるよね。小さい子には隠しごとなんかできないし。
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