2. それ

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 そして問題は若干あって、クロはやっぱり実体を持たない存在なので、私以外の人には見えなかった。当たり前といえば当たり前か。  実家はそういう職業だから私のことは理解してくれているし、父は宮司だけにさすがにクロの気配は分かるらしい。でもやっぱり本来は見えてはいけない存在らしくて、徹底的に父にも見えない仕様になっている。そして実家の佐藤家から独立した我が飯島家では、見えないクロもそれなりに遠慮しているらしい。慶一さんが居る時は不在にしていたり、居ても部屋の隅で大人しくしている。だから夫にはクロの存在は伝えていないのだけれど。  成長するにつれ、自分のこの能力が危ういものであることを実感した。物事の分別がつく前に線引きをしてくれた神様には感謝だ。だからこそ、まさかの大人になってからの能力復活に、色々と戸惑うこともある。 「なにより、慶一さんに秘密なのがね……」  そう呟きつつ、家を出た。夫に秘密。プラス、若干の後ろめたさ。それはクロ可視化現象と共に湧いた、もう一つの現象のせいだ。  ◇◇◇◇
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