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1. これ
平日木曜日の二十二時。ご飯も食べて、歯も磨いて、お風呂に入ってパジャマになって、あとはもう寝るだけの、のんびりタイム。
リビングに戻ると夫がテレビを観ていた。すでに彼の方が先にお風呂に入り済み。こちらはパジャマで無くて、スウェット派だ。そこにつつっと寄って、ぴとっとくっついてみる。結婚してあっという間の二年弱。こんな動作を自分から仕掛けるだけでも、未だ胸はときめいてしまう。
「んー?」
特に意味のあるわけでも無い声だか唸りだかを発する夫、慶一さん。目線はテレビに釘付けのまま。一見素っ気ない態度だけれど、私にくっつかれた方の腕を回して肩を抱いてくれる。その手の動きが柔らかくて、優しくて、思わずふふっと笑ってしまった。ゆっくり首を傾けて、彼の胸に自分のこめかみ辺りをぐりぐりと押し付ける。
「なに甘えてんだよ」
目線は相変わらずテレビに。口調も素っ気なく。なのに肩を抱く手がきゅっと強まるから、私の鼓動もちょっと速くなる。
「別に、いいでしょ」
私も素っ気なく言い返すけれど、彼に抱き付いているので説得力が無い。
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