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お腹の中、さっき受け止めた慶一さんの精がじんわりと染み込んでいく気がする。それと共に、広がってゆく私の感覚。部屋を満たし、壁を抜け、リビングに広がり、キッチンを辿り、このマンションの一角に住む私たちの家の隅々まで、私の意識は張り巡る。
大丈夫。ここには、悪いものはいない。
索敵が完了し、それでも治まらないこの感覚に、ふと玄関の外まで意識を向けようとした。その途端、寝室の片隅で何かが動く気配がする。今までそこに居るだけだったモノ。それが身動ぎしただけで、私の行き過ぎた好奇心を咎めていることが感じられた。
「分かったよ。あとは、明日……」
小さく欠伸をすると、私は慶一さんの腕をぎゅっと抱きしめる。けれどちょっと思い直して、片手をベッドの外に差し出した。
「お前も一緒に、寝よ……」
規則正しい夫の寝息に誘われて、私の眠気がピークに達する。眠りに落ちる直前、黒い犬が私に頭を撫でられているのが見えた気がした。
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