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マチネ
「なぜ私を?」
町の小さな劇場で、少女は戸惑っていた。
「お前は、不幸そうな面だからだ。シンデレラとは、華々しいものが多いが、俺の舞台は不幸でいい」
少女は、この男の舞台を見たことがあった。
不朽の名作『Romeo and Juliet』を。確かにこの男は、不幸なシーンを重要視していた。
けれども、
今回は『Cendrillon』……シンデレラだ。
悲劇ではなく、Happy End。
少女には、それを演じる自信が無かった。
「それでは、ラストのシーンが……」
「いい、いい。不幸な面のままでいい」
「お前は、自分でオーディションを受けておきながら、主演に選ばれたのに不幸そうな面のままだ」
少女は俯いた。
「それでいい。最初から、Happy Endは望んじゃいない。シンデレラが結婚をしたところで、幸せになる保証はないし、王子がのらくら者かもしれないんだ」
(そんなシンデレラがあるだろうか)
(あっていいのだろうか)
悩む少女と対照に、男は言い切った。
「そのままのお前でいい。不安そうな、不幸の染み付いた面。そこがいい」
役ですら、幸せにはなれないのだと
少女は絶望した。
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