2話

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「はい、ただいま」 近くに居た先輩が返事を返し、高城の席に向かったが、 「俺は、あの店員さんを呼んだんだけど」 不機嫌に先輩を断り、俺に笑顔で手を振る。 困った先輩は俺に「お願い」と視線を送りつつ、片付けに戻る。 仕方なく俺は高城のテーブルへ。背後にいる天王寺は振り返れない。たぶん見ちゃいけない、見てはいけないと思ったからだ。 「姫木先輩、今日も可愛いですね」 「嬉しくない」 「なんでですか? エプロンとか、ちょー可愛いのに」 「男が可愛いとか言われて、嬉しいわけないだろう」 ため息を含ませて、俺は全然誉め言葉になってないと、高城を指摘する。だが、高城はお構いなしでにっこりと微笑む。 「俺、今日めちゃめちゃ決めてきたんですよ」 そう言った高城は突然席を立ちあがる。 長い脚に、肉付きのいい体格、身長も高く、顔も整っている。確かに俳優かモデルだと言っても誰も疑わないだろう。その四分の一くらいでも俺に分けてくれてもいいんじゃないかって、思うほど兼ね備えすぎている。 神様は意地悪だ、そんなことを思っていたら、高城はいきなり俺の肩に腕を回してきた。 「可愛い店員さんと、ツーショット」 「のわっ、おま、……何すんだ」 「おっ、イイ感じに撮れてますよ」 頬をピッタリくっつけた写真を撮られ、高城は満足そうにその写真を俺に見せる。 しかもだ、それを待ち受けに設定して、嬉しそうに俺に見せてくる。 「消せ」 なんでこいつとのツーショットを待ち受けにされなきゃいけないんだ、と、俺は高城から携帯を奪おうと手を伸ばしたんだけど、これが惨劇となる。 驚いた高城がバランスを崩して椅子に座るように倒れ、同時に俺もバランスを崩して高城に抱きつくような形で覆いかぶさってしまった。 「姫木先輩ってば大胆」 傍から見たら、俺が高城に抱きついたように見えるこの格好。周りの女の子たちはなぜか黄色い声をあげて、喜んでいるようにも見えたが、その一番後ろから食器が割れる音が響き、俺の体温は氷点下まで下がり、絶対に振り向けない状況に追い込まれた。
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