止まない雨に傘を持つ

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止まない雨に傘を持つ

一向に止まない雨を喫茶店の窓から眺めている。 雨足はお昼頃から強まり、風が出てきた。 遊歩道を歩く人の影も消えて、雨粒が遊ぶ姿が見えていた。 わたしが座る席から見えている景色は、灰色に染まっている。 それは、雨雲のせいにほかならない。 本来、青々としているはずの公園には数人の若者が待ち合わせをしているが、天候の悪さを変えることはできそうにもない。皆、思い思いに傘を差し、これから遊ぶであろう相手を待っている。時期は梅雨こんなに雨が続いている日々に、わざわざ出掛ける必要性もないときにと、悪態をついたところでわたしも彼らと気分は変わらないのだろう。要するに、憂鬱なのだ。退屈をまぎらわせたくてしかたないのである。梅雨の中休みが来たところで変わらない憂鬱と退屈。雨の強い日にはどうしようもない不安さえ襲うような日常を忘れたいのだ。 机に放置したスマホのデジタル時計は、昼の三時を過ぎていた。充電をつけているので電池が無くなることはない。メールかラインが届いたのか、知らせのランプが点滅している。友人からではない。登録したメルマガの類いだろう。大体、平日に休みが振り分けられる仕事に就いている友人は居なかった。皆、大都市でサラリーマンで、パートで生きているわたしとは生活スタイルが違いすぎる。 店員が運んできた珈琲には、ミルクと黒砂糖が添えてある。カフェオレのお代わりはないので、無糖の珈琲にミルクを余分にもらって、せこい方法で、カフェオレにして時間を潰すのがわたしだ。 二杯目の珈琲を飲み始めたとき、視線の片隅に赤いドレスに赤いピンヒールの女を捉えた。 女の出で立ちは余りにもおかしなものであった。今の時代にはそぐわない赤いドレスは、公園から離れた場所からでも異様なものに映った。大体、雨にも関わらず、何を思っていてか女は傘を持っては居なかった。 ただの客引きだろうとしか思えなかった。 古い映画のワンシーンでも気取って居るのか、わたしが座る席から見える女は、滑稽だった。今時、誰かの気を引くために雨に濡れているというのは痛すぎる。とはいえ、遠目に見える女は、黒い髪を背中まで伸ばし、二の腕を見せる赤いドレスを纏い、公園の入り口から動く気配を見せなかった。
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