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アパートを出て駅へ向かう道を、足だけは忙しなく動かして歩いている時も、頭の中はあのことを考えていた。
『今日の夕方六時か……どう答えたら?いや、そもそも気持ちは固まってないし』
気持ちだけはどんよりとしたまま、いつもの通勤電車に乗り込む。
混雑した車内で一本の吊り革にどうにか掴まると、目の前の席に座る六十代くらいのおじさんが目に入った。
おじさん――私の父と同年代と思われるその人は、このSNS全盛のご時世に新聞を折り畳んで読んでいる。
『満員電車で新聞広げるかな……』そう思っておじさんの新聞に何気なく視線を向けた。
見ようとした訳ではないが、こちらに向けた紙面の占いコーナーが目に飛び込んでくる。
『また占いか。あれ?また運命的な出会い……傘を持つ人?』同じ占い師かと思ったけどそうではないようだ。
『よほど傘を持つ人と縁があるらしい』
『いくら何でもそんな訳ないでしょ。馬鹿らしい』自分に言い聞かせながら、何処か心の中がモヤモヤする……。
会社の最寄駅に着くと、私はモヤモヤしたまま電車から吐き出された。
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