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少女は、古く重く分厚い濃茶の洋扉を開扉して即、自身が目撃した真新しい飛報を伝えるべく、開口する。
「ただいま、お母さん! あのね、さっきねえ、お山に、きらっきらの魔女が――」
ぎぎぎ、と蝶番が軋み、ばたん、と扉の開閉音。続けてからん、と呼び鈴の音。視界を遮る堆い手荷物の向こう――見渡した店内に佇む、鮮やかな陰影に、少女は目を奪われ、声を奪われた。
店の中、幻想的な夜空の星より、ずっと現実的な光源の下、
――異色の魔女がそこに居た。
こういうのを、なんというんだったか。
『噂をすれば、なんとやら』だ。
木製の受渡台越し、喉を詰まらす娘を見、母は呆れ顔で閉口している。
――あの魔女がうちの店のお客である可能性も、予見してしかるべきであったのに。
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