クロウ + シラサギ = 灰かぶり

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クロウ + シラサギ = 灰かぶり

 切り立った崖の上にそびえるその城は、鋭い尖塔が連なっていて、天に刃を突き付けているように見える。ただでさえ厳めしい外観を囲むのは、行くてを阻むかのように、棘のある曲がりくねった枝を伸ばす木々で、うっそうとした森は城と相まって、まがまがしい雰囲気を醸し出していた。  堅牢な城の入り口には、見上げるような大きくて頑丈な扉があり、上部に設えた狼の顔が、来るものを威嚇するように睨んでいる。負けずに見返す勇気があれば、狼の吊り上がった赤い目が、来訪者に合わせて動くのが分かり、観察されていることを知るだろう。  だがこの扉はあって無いような物で、怪し気な城の住人は、自由に壁を抜けるどころか、空を飛び、悪業のエネルギーを求めて人間界と地底界を行き来する。  アジア地域を縄張りとするコーグレ一族の城は、日本付近の異空間に構えられ、魔王と二人の息子、そして彼らに仕える使役たちが住んでいて、場所柄、彼らは日本名を名乗っていた。  一族の長は影魔(えいま)・コーグレといい、2mを超す巨体に見合わないすっきりと整った顔立ちをしている。それを引き継いだ長男の深影(みかげ)は言うまでもなく、まだ幼い次男の蒼夜(そうや)にもその片鱗が覗き、魔族の中ではたいそう美形な一族として有名だった。  悪魔は人の心を堕落させるというが、その噂が本当なら、魔王と深影は持って生まれた麗しい顔で人間に迫り、相手に抗う気持ちを起こさせる間もなく、難なく堕とすことが可能だろう。  だが、執務室で顔をつき合わせた二人の話題は、人間への悪だくみではなく、コーグレ一族の縄張りに飛び込んできた天使についてのことだった。  話し合う二人の頭上には、真鍮の大きな輪が連なるシャンデリアがあり、蝋燭の代わりに尻尾に火を灯した火ネズミたちが、前を走る仲間の尻尾の火を大きくしようと、口から火を吐きながら、枠の上をぐるぐる回っている。  ゆらゆら揺れるシャンデリアの炎が、うす暗い部屋の陰影を、伸びたり縮めたりして、不気味さをつのらせる中、執務室に向かって廊下を走ってくる足音が近づいてきて、石壁に大きく反響した。
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