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「ぼっちゃまお待ちください。魔王様と殿下はお話中でございます」
執事のスケルトンが、袖から骨の腕を伸ばして、魔王の末っ子の蒼夜を捕まえようとするが、寸での所で間に合わず、大扉が乱暴に開けられた。
「なぁ、お父ちゃん、お外で遊んできていいか?」
「蒼夜、また人間界に行くのではなかろうな?兄の深影を見習って、きちんと魔界の勉強をせぬか。深影が十歳のころはもう変身できたぞ」
「俺だってできるよ。ほら見てみ」
薄暗い城内のだだっぴろい広間の中央に、ボンっと一瞬、閃光と煙があがり、一羽のカラスが羽ばたいた。
「カァ~~~~(んじゃ、ちょっと行ってくる)」
「おい!蒼夜、待たぬか!もっとましなものに変身できるようになってから行け!それでは下級の魔物にだって捕らえられるぞ」
大地を揺さぶるような魔王の怒鳴り声もものともせず、崖にそそり立つ不気味な城から飛び立てば、グニャグニャ曲がりくねる枝が蔓延った森は、蒼夜の眼下へと押しやられ、黒い影絵のように遠のいていった。
城の外には、地底界と人間界との間に設けられた異空間の空が横たわっていて、二つの世界が交わらないようにするための結界の役割も果たしている。窓際に立ち、空を見上げていた兄の深影は、結界を抜け出る渦巻き状の雲の中へ、あっと言う間に消えていったカラスを見て苦笑した。
「全く、蒼夜には困ったものだ。父上、私が蒼夜を連れ戻して参ります」
「うむ、頼むぞ、深影。先ほど話に上った天使は、昇格試験を受けている最中らしい。天界の小道具で人間の望を叶え、神から進級の判定を受けるそうだ。鉢合わせて、蒼夜を諍いに巻き込ませぬよう注意せよ」
「御意。では行ってまいります」
言い終わらぬうちに、ボンと炎と煙に包まれた深影が、一瞬のうちに鷹に変わり、窓から外へと飛び出していった。
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