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右腕がL字に曲がったままなのは、脳梗塞の後遺症だと聞いている。気を抜くと右側に傾いてしまうので気を付けなくてはならない。
特養で働いていた頃にも同じような利用者がいたおかげで、既往歴を聞くだけで前に注意事項は想像できた。ちょうどベッド上で食事を終えたばかりと見える元野幸代は、少し硬い笑みを見せて、
「よろしくどうぞ」
か細い声と共に頭を下げた。
「準備しないといけないですね」
そう言いつつ、幸代は身じろぎした。介護ベッドは上半分が直角に近い角度まで上がっている。安定した姿勢が取れないせいだろう。天板と支柱、キャスターによってコの字になっているサイドテーブルの上にはフォークと空の皿、そしてヨーグルトの空き容器があった。
「まだ余裕ありますからゆっくりで良いですよ」
美也子はそう言って微笑みつつ、窓の外を眺めた。家と家の間隔が離れており、家によっては小さな畑さえ持っている。そんな地域の窓には、深い緑やひまわりが似つかわしく思えた。
「暑くなりそうですね」
「ええ、暑いのは嫌ですけれど」
幸代はそう言ってコップの水を傾けた。
「では、お願いします」
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