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服を着替える間も黙ったままではない。声が細く、麻痺のために発音が上手でなくなった幸代だが、元々話すのは好きらしく、仕事についたきっかけから学生時代のことまで、短い時間で尋ねてきた。
「他に仕事がなかったのが一番の理由なんですけどね」
美也子はそんな時、笑いを交えて答える。いつしかそんな受け答えができるようになっていたことに我ながら変化を感じる。一年前の自分なら、その事実を受け入れられず、恥ずかしく感じていたはずだ。ごまかすために嘘をついていたかもしれない。
「でも続けていきますよ」
たとえ始まりが不純でも、続けていくうちに澄んだ気持ちを持てるようになれば良い。背景よりも仕事の結果が大事なのだ。着替えがうまくできないのなら、そこに手を添えてやれば良く、安全に外出ができないのなら杖となる。それで安楽な暮らしができるのなら、何も恥ずべきことはないのだ。
「良いわね、若い人がやってくれるのは」
幸代はそう言って、動く左手で口元を隠した。写真に映った若い頃だったら、さぞかし可憐な印象を与えただろう。小さくなった今も、どこかかわいらしく見える。
「デイサービスはどうですか」
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