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1.出口の見えないトンネル
「ま、また負けちゃいました……」
子狐娘にして稲荷神の狐乃音は、目の前の惨状を見て嘆いていた。
紅白が鮮やかな巫女装束に加え、なぜか青と白の法被を重ね着している狐乃音。そして、両手には応援用のメガホン。
まるで、野球場の外野席で観戦でもしているかのような姿で、がっくりとうつむいていた。
ここはスタジアムではない。お兄さんの自宅にある、大きなテレビの前に陣取って試合を観続けていたというわけ。
「弱いのです。すごく、弱いのです……」
狐乃音はしみじみと、二回言った。
「全然勝てないねえ」
すぐ側には、在宅仕事中のお兄さん。
お兄さんはいつもBGM代わりに、野球の有料放送をつけっぱなしにしていた。
そしたら狐乃音はいつしか興味を抱いて、ルールからチームの事やら、お兄さんにレクチャーをしてもらい、覚えてしまったのだった。好奇心を持った子供は、とにかく飲み込みが早いものだ。
「これで、一四連敗です……。このままだと、新記録を更新しちゃいそうです」
「あらら。いつの間に、そんなに負け続けてたんだ」
東京ピクルトスパローズ……。
プロ野球センターリーグに所属するチームであり、狐乃音が贔屓にしていた。
ちなみにマスコットキャラクターは、すぱ九郎という名前のスズメだ。やりたい放題やっている様が可愛いと、狐乃音は言っていた。
「いつも、決してぼろ負けではないのです。リードすることもあって、勝ちそうなのに、最後の最後で逆転されちゃっているのです」
思わせ振りに、勝てそうな雰囲気があることが多いから、ガッカリ感も激増する。
「そうだよね。なんだかまるで、呪われてるみたい」
お兄さんの一言に、狐乃音はハッとした。
そういえば自分はなぜか、巫女装束がデフォルト衣装な狐娘なのだと、改めて気づかされたのだ。神様なのに、何故か巫女姿なのだ。
お祓い! なんだかこう、できそうな気がする!
「やってみます!」
狐乃音は胸元からお祓い串を取り出して、そしておもむろに振り回し始めた。
それを見て、お兄さんは思った。狐乃音ちゃんの胸元は、なんだか四次元ポケットみたいだね、と。
以前にも、いろんな物を取り出していることがあったのだ。
「悪霊退散! 悪霊退散なのです!」
ばっさばっさと、お祓い串を振り回す狐乃音。
「かしこみかしこみなのです~! うぎゅんっ!」
お祓いの最中、狐乃音は自分のふっさふさな狐尻尾を踏んづけてよろめき、畳の上にべしゃっと転んでいた。
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