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ハーネスなんて大嫌いよ
あれから協力してくれた青年、カイトたちと別れ、オレは皆の住んでいる家を後にした。
「本当にありがとう」
これもすべてルークが彼らを助けたからだ。オレは、協力してもらえるような人間ではないのだがお嬢を助けるために彼らの気持ちを利用して、協力を頼んだ。
ヘリから、結婚式場を見下ろしている時、ふいにルークのことが浮かんだ。オレは、ルークを助けられなかった。だが、ルークは一人でこんなにも救ったんだ。
オレは、こんなに協力してもらって女の子一人しか救えなかったよ。でも、殺すしか、奪うしかできなかったオレがこんなやり方でも、一人の女の子を救ったんだ。後悔はしていない。
「いえいえ、ハーネスさんのお嫁さんが誘拐されて別の人と無理やり結婚させられそうになっているから助けてほしいなんて言われたら、協力させてもらうに決まってるじゃないですか」
カイトたちはにこにこしながらオレたちを見つめている。
ここでいうんだ、それ・・・別にいいけど。
「えぇ!?」
「あぁ、おかげで無事救い出すことができたよ、ありがとな」
「えぇ!?よ・・・え?」
「ほら、行くぞ」
オレは、何度も青年たちとオレの顔を交互にみているお嬢の手をひいてあらかじめ買っておいた車の元へと向かった。
「えぇ!?くる・・・え!?」
***
「それからオレは沢山の協力の中、お前を再び誘拐してやったのでした・・・全部話したぞ」
フードのある服を着せたお嬢とカードで買った車で家に帰りながらオレがそういうと、お嬢は目を丸くしてオレを見た。
「あんた、貯蓄どんだけあったのよ」
「もうそんなにない、安いヘリをかって、バスも買ったりしたから。今までの貯金を子供たちがあまり使わなかったのか、少し入れておいてくれたのかわからないが、残りは少ないが世話になった猫ババに渡そうと思っている」
「そう・・・ん?猫ババ・・・猫ババ!?忘れてた!!猫ババ!絶対怒ってるわ!!」
お嬢は急に顔が真っ青になり俯いた。そうだろうな、オレもだろう。
オレはずっと青年たちと過ごしていたので、実は家に帰るのは久しぶりなのだ。
「ほら、行くぞ」
「う・・・うん」
お嬢と一緒に車を降りたオレは、猫ババの部屋へと真っすぐ向かった。
扉を開ける前に、扉ががちゃりと開いて、不愛想な猫ババが出てきた。
「ね・・・猫ババただいま」
「猫ババ・・・ただいま」
「はいりな」
冷たく低い声がオレたちに重くのしかかる。いや、確かに悪かった。
お嬢のニュースを見てから家を飛び出して、一回くらいは家にかえったかもしれないけど、カイトたちに協力してくれって頼んでからあっちで過ごしてきたからな。
部屋に入るなり、猫ババは、お嬢の頭をがしがし撫でた。
「猫ババ・・・」
「やっぱり人違いだったんだねえ・・・あんたみたいなドブ川に住んでそうな生意気猫がお金持ちのお嬢さまなわけないもんねえ・・・顔が似ているから誘拐されちまったんだろう?」
めちゃくちゃ都合のいい解釈をしてくれている!?
「えぇ・・・名前まで同じだから余計にね!」
親指をたててややこしくなるこというな。
「あ、ドブ川に住んでそうは余計よ、このマンションあたし結構気に入ってるんだから」
「どこがドブ川だい」
猫ババは、猫屋敷をけなされているのにどこか嬉しそうだった。
「あんたもね」
いきなり頭を押さえつけられてがしがし撫でられてオレは思考が停止した。
他人に頭を撫でられたのは初めてだった。
「へ?」
「あたしの猫、連れ帰ってくれてありがとね。あんたも帰ってきてくれてよかったよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
猫ババは、今まで見た中で一番優しい、猫をいつも見ているような笑顔で微笑んだ。
オレは、この町にはいられないなと思っていた。またお嬢は確実に連れ戻される。この町は早く出なくてはならない。その為に車も買ったんだ。
でも、猫ババのこんな表情を見てしまうと、その判断も少し揺らぎそうになる。
「あぁ、いつも本当にありがとう、オーラさん」
「気持ち悪い顔で笑うんじゃないよ」
なんで!?
猫ババは、くるりと背を向けてまた大量のパンをくれた。
「久しぶりの部屋ね」
「最初にお前がトイレっていった部屋な」
「ふふっあははは、そういえばそうだったわね」
お嬢はくるりとターンしてソファにぽすんと座った。
オレは、その隣にすとんと腰を下ろす。
「ハーネス、またあたしを助けてくれてありがとうね、ハーネスにあんなにお友達がいるなんて思わなかったわ」
「オレの友達の友達だ」
「あたしのことお嫁さんっていったんでしょ?友達の友達にロリコンだって思われたんじゃない?大丈夫?ねえハーネスあたしのことお嫁さんっていったらしいけど」
お嬢は、にやにやしながらオレに体をよせてくる。オレは、ムカついたからお嬢を引きはがした。
「それはそうと、猫ババの家にいた時鍵が普通に開けられていて、荒らされた形跡はなかったらしいんだが、お前もしかして自分から家を出たのか?」
「え・・・えっと・・・」
「正直に答えろよ、なあ、おいなあ、おい、なあ、おい」
人指す指と人差し指を突き合わせてもごもごしているお嬢のほっぺを人差し指でぐりぐりつくと、
「ハーネスにあたしの大切さをわからせてやろうと思ったのよ!!」
「は?」
「ハーネスが、あたしがいなくなったら心配してくれるかなって思って・・・だから・・・ちょっと家から抜け出して・・・」
「猫ババに後でひっぱたいてもらうわ」
「ガチで痛そうじゃない!!悪かったわよ!!本当に反省してるわよ!!もう勝手に家から出たりしないわよ!ハーネスの側を離れないんだから!」
「・・・・・・・・・」
「無視しないでよお!?」
泣きそうな顔でオレの服をつかんでゆさゆさゆすってくるが、オレはこいつのかまってちゃんに振り回されたっていうのか。いや、かまってちゃんを発動しなくても、どのみちこうなっていたかもしれなくはあるが、面白いからしばらく無視しよう。
「ねえハーネスごめんってばあ」
「・・・・・・・・・・・」
「悪かったわよ!!ハーネス、何でもいうこと聞くから!」
「・・・・・・・・・・」
「ウエディングドレス、馬子にも衣装っていったんだからトントンでしょお!?」
それはオレが悪かったな、でも決してトントンではないけどな。
「お前には、その恰好が一番お似合いだ」
「なんですって!!」
そういったお嬢は、ふと動きを止めた。
「あたし今日誕生日じゃない!許してよ!」
「誕生日を汚いことに使うな」
「誕生日おめでとうくらいいってくれてもいいでしょう!?」
「かまってちゃんして家出して迷惑をかけたくせにそれを誕生日だから許してくれというのか、随分都合のいい誕生日だなあ、お嬢の誕生日は」
「1年に一度の日じゃない、あたし今までまともな誕生日を過ごしたことないんだからおめでとうくらいいってくれてもいいでしょう?・・・それに、あたしもうお嬢じゃないわよ」
お嬢は本当に悲しそうな顔でオレの服のすそを掴んでしゅんと俯いた。
むかつくけど、これくらいで許してやるかという気持ちになってしまう。
「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
オレは、ふかーいため息をついた。
本当に深いため息だった。
「な、なによ」
「アリス」
「・・・へ?」
「誕生日おめでとう」
素直にそういってやると、アリスは今まで見た中で一番の笑顔でオレに抱き着いてきた。
「うわっ!?なんだよ」
「意地悪で、口が悪くて、レディの扱いがだめだめで、素直じゃなくて、ほんと、大嫌いよ、ハーネス」
アリスは、泣きながらオレの悪口を連ねると、言い返そうとしたオレの頬にキスをした。
「ほんと、だいっきらいよ。ハーネス」
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