同情された子猫ちゃん

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同情された子猫ちゃん

「奴隷はいりませんかー」 ハーネスは、昨日と同じであたしを売ろうと町で声を張り上げている。 あたしは、今日わざと大げさに暴れて目と手足を椅子に縛り付けられた。計画通り。 「ちょっと、ハーネス」 「ん?」 あたしは、わざともじもじしながら言った。 「トイレに行きたいんだけど」 「そうか」 ふっふっふ、かかったわね。ハーネス。 トイレにいくとなれば、嫌でも目線を外さざる終えないはず! その間に逃げてやるわ!! 「我慢しろ」 「!?」 話が終わった・・・嘘でしょ?コイツ、嘘でしょ!? 「ちょっ、ほ、本気?」 「トイレに行っている間に逃げられても困るからな。お前の考えそうなことだ」 「人の心ってものはないのあんたって人は!!」 「それはこっちのセリフだ」 嘘・・・嘘でしょ、嘘だったはずなのに、逃げるための嘘のはずだったのに、なんだか、本当にしたくなってきた。 「ハーネス!!本当よ!!本当なの」 やばいたばいやばい、こんなところで、どうしたら。 ハーネスは、じたばたする私にうんざりするように、口に布を巻きつけて話せないようにした。 「はいはい、苦しくなったら首を2回振って合図しろよ」 あたしは、酷く後悔した。 もっと、使用人たちに優しくしていけばよかった。 もっと、しっかり勉強に取り組んでいればよかった。 もっと、真面目に生きればよかった。 そうしていれば、こんなところでおもらしすることもなかったのに。 こんな腐れ外道に誘拐されてこんな目に合わなくて済んだのに。 涙が溢れそうになる。 今まで恥をかいたことがないこの私が、こんなところで・・・。 「うっ・・・うっ・・・うううう・・・」 あたしがさめざめ泣いていると、周囲の空気が変わった。 「ううっ・・・ううう・・・」 「可哀想に・・・口にも猿ぐつわがされていて可哀想だわ」 「かなり上等の服を着ているが奴隷として売られているとは、余程の事情があったのだろう」 「あんな子供を、酷いわ」 「うっ・・・うっ・・・ううう・・・」 周りの声がどんどん大きくなってきた。 「うううううう・・・」 「おお、いいぞいいぞ、その調子で同情を誘っていけ」 ハーネスの声がした。憎たらしい、いつかコイツ、絶対おもらしさせてやるんだから。 「あの・・・」 近くで沈んだおばさんの声がした。どうやら、ハーネスに話しかけているらしい。 「はい!!はい!何でしょう!!」 ハーネスは、急に声が明るくなった。 「ちょっと、ここまで拘束するのは流石に可哀想なんじゃないかしら。まだ子供じゃない。せめて目や口とかの拘束は外してあげたら?」 「・・・・・」 少しの沈黙の後、あたしの口に巻かれていた布と、目をふさいでいた布は取り払われた。 開けた視界の先では、周りの大人たちがあたしのことを同情の目で見ていた。 あたしは、この光景の方が、傷ついた。可哀想、哀れ、子供なのに、そんな視線があたしのことを突き刺してくる。 さっきハーネスと話していたであろうおばさんが、あたしの顔を覗き込んできた。 「いやいや・・・この辺で子供を売っているところは他にもあるだろ。泣く気力もない子供たちばかりだけどな」 ハーネスの独り言は小さすぎておばさんには聞こえていないみたいだった。 「トイレ行きたい」 よだれまみれの口でそういうと、 「行かせてあげなさいよ、可哀想よ。女の子なんだから」 おばさんはそういって、周りの目が更に鋭くなった。 ハーネスは、目を細めて不愉快という文字を顔いっぱいにかいて足の縄だけ外して、椅子を持ち上げて私を移動させようとした。 「私が連れて行ってあげるわ、すぐそこに私の店があるの。その辺でさせるわけにはいかないでしょう?」 「いやいや、コイツはオレの商品なので困ります」 「いいじゃない、すぐ返すわよ。それに、この子の前で商品とか言わないで頂戴、人格を疑うわ。可哀想よ」 また可哀想と言われたが、おばさんに触れられた手は優しかった。 おばさんは、半ば強引にハーネスを言いくるめ、あたしをトイレに連れ出してくれた。 近くのレストラン、お腹がぺこぺこだった。 ラッキー!なによ、ちょろいじゃない。ちょっと可愛いあたしが泣けばこれよ。トイレも行けてよかったわ。 あのババアもお人よしそうだったし、ちょっと甘えたらレストランで美味しい食事にありつけそうね。 トイレから出ると、さっきのババアがニコニコしながら待っていた。 隣にはどこからわいたのか黒服の男が2人。 「あれ?」 「出てきたようね、可愛い可愛いわたしの子猫ちゃん」 なんか、雰囲気違うんだけど。
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