recipe3

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インターフォンを鳴らそうと伸ばした指先までもがドクドクと脈打っている気がする。こんなに緊張するなんて、会えるかどうかも分からないのに。 大槻さんの家は徒歩五分程の近所とは言え、この雨の中を歩いて来たのだ。あちこち濡れてしまった。だけど、そんな事は少しも気にならない位にフワフワとした気持ちが私を支配している。 気合いを入れてようやく鳴らしたインターフォンを、ドア越しに息をひそめて聞いた。「はい」と答えてくれた声だけでドクンと心臓が大きく跳ねる。 家に居るとは思っていなかった。ううん、正直に言おう。居て欲しいとは思っていた。もしかしたら今日ならって、勘みたいなものもあった。 「あのっ、五十嵐です。またちょっとお惣菜とか持ってきたんですけど、良かったら……」 上擦った自分の声が恥ずかしい。だけど、すぐに開けられた玄関ドアの向こうにある笑顔に射貫かれ、そんな事は一瞬で吹っ飛んでしまった。
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