recipe3

2/5

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
玄関先で帰ろうとする私を引き止める言葉に、二度は断った。三度目に「じゃあ少しだけ…」って言った口調はわざとらしくなかっただろうか? 持ってきた料理の内容を説明しながらタッパーをテーブルの上に出させてもらう。 「あ、これ好きなんだよなあ……うーん、美味しいなぁ!」 蓮根のきんぴらを出した途端、日に焼けた逞しい腕が伸びてきて、タッパーの蓋を開けてつまみ食いして行った。 「ふふっ、つまみ食い!」 「仕方ない。こんなに美味いもん目の前にしたら、誰だってこうなるでしょ?」 目の前で美味しそうに食べてくれるその姿に、ポウッと胸の辺りが熱くなる。誰だってって言うけれど、家では溜息しかもらえない。 「これは…枝豆のポタージュスープ。冷たいまま召し上がって下さい。」 夫に散々な扱いを受けたスープが入ったタッパーを恐る恐る出す。 「へぇ、枝豆のスープ?!美味しそうだなぁ。冴子さんの料理、いつも野菜たっぷりで有難い。親父もいつも喜んでて。冴子さんの料理だと箸の進み具合が全然違うんですよ。毎日こんな美味しい料理が食べられるなんて、ホント、冴子さんの旦那さんが羨ましいな。」 そういう彼は、大槻さんは大槻さんだけど、息子さんの方。息子って言っても、もう五十になろうかという年齢で、私とそう変わらない。大槻真志(まさし)さん。どういう巡り合わせだろう、漢字は違うけれど夫と同じ名前、“まさし”さん……。 「美味しい」と言って、日に焼けた精悍な顔がクシャッとなる。その笑顔が見たかったのだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加