recipe3

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インドア派の夫の生白い無駄な脂肪ばかりの腕と全然違う、真志さんの日に焼けて筋張った腕をついつい目で追ってしまう。 ―――ゴツゴツとした手で掴まれた私の白く細い腕。「まだ帰らないで」、そう言って引き寄せられ厚い胸板に頬を寄せる。真志さんの指が私の髪をそっと撫でた後、首筋から背中へと滑って行き、きつく抱きしめられる。顎を引かれ背の高い真志さんを見上げ、互いに視線を絡める。吸い寄せられるように近づいて行く唇と唇――― 妄想の中で、私は華奢な女になる。そんな妄想をする事は浮気なのだろうか? 帰り際、赤い紙袋を渡された。黒いネコが目印の可愛いケーキ屋さんの物で、以前持ってきたタッパーと共に焼菓子の箱が入っていた。 「シャノワール。これ、わざわざ……?」 「うん、日頃のお礼に。って言っても気持ちだけで。いや、ゴメン、ああいう店、滅多に入らないから何が良いか分かならくて…。いつ来てくれても良いように日持ちするヤツになっちゃって…」 ずっと前に私が好きだと言ったお店“シャノワール”にわざわざ買いに行ってくれたのだ。 真志さんが、可愛いお店の中でマゴマゴしている様子を思い浮かべた。その時そうして私の事を想って選んでくれた。それだけで嬉しかった。ただのお礼の品だとは分かっていても、胸の中が甘く疼くのを抑えられない。 例え貰った物が飴玉一つだったとしても、私は同じように舞い上がる気持ちを感じただろう。 真志さんは私の脳内の浮気なんて全く知らない。知らないままで良い。 「嬉しい……ありがとう。」 何事もなかった。身体が触れるような事も、指先すらも触れる事が無く、そんな雰囲気を匂わすような言葉のやりとりすら無かった。 ただ、お惣菜を届けてお礼の品を貰っただけ。だけど、家に帰る足取りは、雨の中でさえも軽かった。ずっと降り続いていた雨がサアッと晴れて、陽の光が水滴に反射してキラキラと輝いている時の様に。
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