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ダイアリー公爵家の一人娘として生まれて早十七年。私レイチェル・ダイアリーにはある悩みがある。
それはーー。
「貴方の様な凡人の誘いを、私が受けると思ったのですか?ハッ。随分と頭の中がお花畑なのですね。私が踏み散らしてあげましょうか?」
この、刺々しい口調になってしまうことである。
「はぁ……またやってしまいましたわ。どうしてあんな言い方しか出来ないのかしら……私」
今日も自室で一人反省会。
相手に酷い事を言ってしまった日は、いつもこうしてベットの枕に顔を埋めて悶々としているのである。
「はぁ……なんでこんなことに」
自分で言うのもなんだが、私は美人だ。
腰まで伸びた真紅の髪に、パッチリした大きな薄茶色の瞳はガラス玉のように美しく。胸も程よい大きさで、正直スタイル抜群である。
髪の色に合わせた赤いドレスは、まさに私の為に作られたと言っていいほどピッタリで、まるでそこに赤い薔薇が咲いているかのようにも見える。
なので、言い寄ってくる男は多かった。
特に貴族同士というのは、何かとお茶会やらダンスパーティーやらがあるせいで、ここぞとばかりにアピールしてくる男性がいるのだ。
けど……そんな人達も、私の態度を見た瞬間。
皆私から遠ざかっていく。
それもそうだろう。どれだけ話しかけても素っ気ない態度で、口を開けば嫌味しか言ってこない女なんて誰も相手になんかしない。
そうしていつしか付いたあだ名はーー『赤薔薇の女王』
見た目は美しい薔薇だけど、棘だらけで誰も触れない女王様のようだと言って、いつの間にか誰かが勝手に広めていた。
それでも興味本位で言い寄ってくる男は何人かいたけど、結局最後は心が折れて諦めて去っていく。
「私だって、別に傷つけたくて言ってるわけじゃないのに……」
昔から素直になれない性格であった。
小さい頃はそれも可愛いって言われてきたけど、大きくなるにつれてその可愛さは無くなっていく。
「こんなんじゃ、いつかあの方にも嫌われてしまう……」
そう。
こんな私でも、密かに想い焦がれる人がいるのだ。
コルク・ヴェルデーク。この国の第三王子だ。
しかし王子というわりには少し暗めの方で、伸びた真っ黒の前髪はいつも俯いている目元を隠している。
性格も控えめで、謙虚で内気な方。頭脳は優れているらしいが、運動やコミュニケーション能力というのは苦手な方らしい。
特に一つ年上の兄。アスカ・ヴェルデーク王子がコルク王子とは全くの正反対で、金色の髪に薄緑の瞳といった美しい美貌の持ち主。
誰にでも優しく。類まれなる頭脳と運動能力で、世の女性を虜にしている。
そんな完璧な兄と、地味な弟。
いつしか比べられるようになっていくのは必然だった。
アスカ王子は皆から慕われ、コルク王子は蔑ろにされていった。
けれど私は、アスカ王子ではなく。コルク王子を好きになった。
婚約者にするなら、彼しかいないと思っている。
「そういえば今夜、ヴェルデーク家で舞踏会があるんでしたわ」
貴族というのはどうしてこうもパーティーをしたがるのか、一人の時間が好きな私には全然理解できなかったし。私が行ったところで、空気が悪くなるだけ……だと思っていたけど。
「でも、こういう時じゃないとコルク様とお話しできないし。私からダンスをお誘いすれば……」
今まで男の人とうまくいった試しはないけれど、このままってわけにはいかない。
私ももうすぐ十八歳。お父様から婚約者を先に決められてしまう前に……コルク王子をその気にさせる!
ーーって、あの時はあんなに意気込んでいたのに。
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